蜘蛛の糸は自身をも捕える

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「何だその目は」 「いえ、何でもありません」 「どうせ保健医が寝てていいのかとか思ってたんだろ」  この人はエスパーだろうか。  そもそもわかっているなら寝なければいいのに。  噂もあって誰も来ないから、それをいい事にサボっていたというところだろうけど、そもそも何故そんな噂が広まったのだろう。  見た目を見る限り、女子に人気間違いなしなのに。 「ところでお前、体調が悪いとか言ってたがもういいのか」 「え? ああ、そういえば。何だか体が軽くなったみたいです。きっと休んだからですね」  さっきまでが嘘のように身体は軽くなり健康状態。  これならこの後の授業も受けられると思ったその時、私の視界に時計が映る。 「ご、五時過ぎ!?」 「騒ぐな。煩い」  顔を顰めて耳を塞ぐ先生に、何で起こしてくれなかったのかと文句を言うが「お前が勝手に寝てただけだ。俺が起こす理由はない」と突き放され、カチンときた私は去り際「このヤブ保健医」と吐き捨てて保健室を飛び出す。  教室に行くとすでに誰もおらず、校庭からは部活中の生徒の声が聞こえてくる。  今までサボった事などなかった私は軽くショックを受けながら、机の中の物を鞄に仕舞い教室を出る。  スマホを見れば、友達からのメールが二件。  一通目はお昼休みに来ている。  二通目は数十分前。  いきなりいなくなった事、その後の授業にも来ていなかったのを心配する内容。  私は下駄箱で靴に履き替えると、心配をかけてしまった事への謝罪文をメールで友達に送る。  スマホを鞄に仕舞い、自転車に乗り帰る。  帰宅途中思い出されたのはあの保健医。  口は悪いけど、目が逸らせなくなる程綺麗な人だった。  男の人に綺麗なんて思ったのは初めてだ。  その翌日。  教室に入り自分の席に座ると、友達が駆け寄ってきた。  あの後メールで保健室で休んでたことなど話したけど、保健医のことは話していない。  よくわからないけど、話してはいけない様な気がしたから。 「もう平気なの?」 「うん。もうすっかり元通りだよ」  両腕を曲げて元気元気とアピールすると、安心したのか友達は安堵の表情を浮かべてくれた。  と思いきや、話は保健室に変わる。  聞かれるだろうとは思ってたけど、凄い質問攻め。  中はどんな感じだったかとか、保健医の先生はどんな人だったかとか。  中は普通だったけど、消毒液などの匂いが一切しなかったこと。  保健医の先生とは会えなかったと一つ嘘をついて話すと、あまりに普通すぎて友達は一気に興味を失ったようだ。  もし保健医の先生が綺麗な男の人だと知られれば、その話は直ぐに知れ渡ってお昼には女生徒が保健室に押し寄せるに違いない。  でも私がそうしないのは、あの美しさを知ってしまったから、誰にも見せたくない、知られたくないと思ったのかもしれない。
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