9人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
蜘蛛の糸は自身をも捕える
高校生になった私は、新しくできた友達から噂を聞いた。
この学校の保健室の先生は変わり者で、保健室には誰も近づかないというもの。
それどころか今では顔を知る人さえおらず、口が裂けているだの両目が縫われているなど言われているらしい。
不思議なことに、先生達も見たことがないらしく、学校へ来るところも帰るところも見た者がいないとか。
聞いていて、保健室の意味がないように思えた。
「でも、怪我したり病気をしたらどうするの」
「なんか、先生達の暗黙のルールみたいなのがあるらしくて、保健室には連れて行かず先生達で判断したり手当をするみたい」
尚更保健室の存在が無意味な気がしてくるけど、自分には関係のないこと、そう思っていた。
なのに、ある日私は体調を崩した。
最初は我慢できる程度だったからよかったけど、次第に悪化していき、廊下を歩く足はフラフラとする。
お昼休み。
何とかここまで耐え抜いたが、やはり少し休みたい私は、重い体を引きずるようにして例の保健室へと向かう。
先生に話して帰してもらいたいところだけど、両親は海外の仕事で家には滅多に帰らない。
つまり、迎えにこれる人はいないということ。
それにお昼までなんとか耐えたんだから、少し休めば良くなるはず。
誰も見たことがないのだから、保健室に先生がいるのかすらわからない。
でも、ベッドくらいはあるはず。
少し休めればそれでいいと思い扉を開ける。
保健室なのに消毒液の匂いはせず、二ヶ所カーテンが閉められている。
誰かいるんだろうかと片方を覗くと、そこにはベッドが一つあるだけ。
私はホッとしてそのままベッドに倒れ込むようにして横になる。
暫くして目を覚ました私は、どうやら眠ってしまっていたらしい。
一体今は何時なのか確認しようとカーテンを開けると、窓から入る風がある人物の髪を揺らしていた。
「起きたか。人のテリトリーで寝るとはいい度胸だな」
黒い白衣を纏った男は、私を見ると不敵に笑う。
色白な肌に目の下には数針縫われた跡がある。
私は目の前の人物が尾ひれのついた噂の先生だと瞬時に理解する。
でも、やはり噂は噂だったようだ。
見た目は普通どころか綺麗という言葉がピッタリで、だからこそ目の下の縫われた跡が目立つ。
「勝手にベッドを借りてすみません。体調が悪くて来たんですが誰もいなくて」
「俺ならそこにずっといたが」
そう言いながら指差すのは隣のベッド。
確かにカーテンは二ヶ所閉められていた。
でも、何より問題視するのは、先生が保健室のベッドで眠ってていいのかだ。
最初のコメントを投稿しよう!