運命と出会ったら

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どれくらいそうしていたのか、我に返って公園中を探したけれど彼はいなかった。スマホにも出ない。どこを探してもいない。だからもしかしたらと帰った家にも、彼はいなかった。 湧き上がった不安と恐怖は消えるどころか膨れ上がり、僕は何も出来ないまま一人で家で待つしか無かった。 1時間、2時間。 どれだけ待っても彼は帰ってこない。そしてついに時計の針はてっぺんを超え、さらに外が白み始めてきた。それでも彼は帰ってこなかった。 不安と恐怖に飲み込まれた僕は、ただ座って彼の帰りを待った。待って待って、朝が来たその時、玄関のドアが開く音がした。その音に僕は弾かれたように立ち上がり、玄関へと向かう。けれどそこにいたのは彼ではなかった。 それは僕の両親だった。 合鍵を使ってドアを開けたのか、それとも初めから鍵をかけ忘れたのか。両親は辛そうな顔をして玄関に立っていた。そして告げる。彼は帰って来ない、と・・・。 その後のことはよく覚えていない。 部屋に上がった両親の話を聞いたのは覚えている。でもその時僕がどうだったのかは分からない。ただ静かに聞いていたのか、それとも泣いて喚いて暴れたのか。だけど気がつけばまた、僕は一人部屋にいた。 頭の中は、両親から聞いた話でいっぱいだった。その話は僕の頭の中でぐるぐる回り、けれどまだひとつも理解出来ていない。話をしたのは父で、母は隣で下を向いたままだった。肩が震え、時折喉をつまらすような声が聞こえる。でもそんな姿を見ても僕はなんにも感じなかった。 母が泣いている。 それが分かるのに、僕は何も出来ない。ただ僕はそんな母を見て、そして父の話を聞いていた。 あの時彼は『運命の番』に出会ったのだそうだ。 運命の番とは医学的にもその存在を証明されているもので、決して都市伝説でもおとぎ話でもない。アルファとオメガの間で、自分の最も優秀な種を残すための相手を本能が選び出し、その相手に出会うとオメガは発情し、アルファはそのフェロモンを嗅いで相手を認識する。 一度出会ってしまった運命の番同士はその相手の存在を強烈に刷り込まれ、その相手と番わなくてはいけないという思いに支配される。それは本能が思わせるものであり、感情をはるかに上回る。 どんなに心が拒絶しても、身体の奥底から湧き上がる本能の欲求には逆らえない。だからたとえその場は回避することができても、一度知ってしまった運命の番の存在は頭の中から消えず、その相手と番たいという強烈な本能の欲求から逃れることはできない。そしてそれは、番になるかオメガが妊娠するまで続く。 彼はあの時、あの大勢の人混みの中で運命の番のフェロモンを嗅ぎ取ったのだ。そしてその瞬間本能に支配され、心を失った。だから僕の存在を遮断し、無視し、本能に駆り立てられるままオメガの元へ行ってしまったのだ。そしてそのオメガを見つけ交わり、うなじを噛んでその腹に精を植え受けた。 番ったことで本能の支配から開放された彼は我に返り、自分がしてしまったことを知る。そして実家に帰って事が発覚した。 なぜ実家だったのか。 それはきっと、僕に会いたくなかったからだろう。だって彼は、違うオメガと番ってしまったのだから・・・。 彼の両親は彼の話を聞き、そして僕の両親へとそれを伝えた。そして両親はこうして僕のところに来たのだ。 あっという間の出来事だった。 つい昨日のお昼まで、僕たちはここで変わらない幸せの中にいた。なのにそれから一日も経たないうちに、もうその幸せはない。 両親は僕に話しながらとても辛そうだ。そうだろう。両親だって、こんな話を僕にするのに平気なはずがない。だけど、両親の口調からは彼を責める様子はなかった。それは父がバース科の医師だからだろう。 まだ世間的には都市伝説の域を出ない『運命の番』。けれど父は医学的にもその存在が認められていると言っていた。ということは、医学界では既に存在は証明されており、そしてその運命の番と出会ってしまったアルファとオメガがどうなるのかを知っているのだ。そしてそれはきっと、己の意志ではどうにもでにないほど強烈な本能の支配なのだろう。
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