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だから父は彼を責められないのだ。
ある日突然事故にあったようなものだから。
出会ってしまったことは彼の意志ではなかったのだから。
だけど、だからなんなのか。
その先を僕は考えられなかった。
父の話を聞きながら、僕はその事実を受け入れられなかった。
事実はわかった。
でもその先は?
頭は何も考えられず、心は凍りついてしまった。でも分かるのは、もう彼はここには帰って来ないということだ。
運命の番と出会った彼はいい。僕でなくても、代わりのオメガがいるのだから。
でも僕は?
突然当たり前のように存在した、将来を誓った愛するアルファが、なんの前触れもなく突然いなくなってしまったのだ。そんなことを言われてすぐに理解出来るものでは無い。
言葉にできないくらいの喪失感と、心に空いた大きな穴。
その二つが僕を包み、何も考えられなかった。そんな僕を心配して一緒に帰ろうという両親を、僕は一人になりたいからと帰したのをなんとなく覚えている。
誰もいない部屋で、僕は一人何をしていたのか。
茫然自失のままどれだけそこにいたのか。
気がつけば真っ暗な部屋で、窓がほんのり明るくなっている。
夕方?
朝?
よく分からないけど、ここにいつまでいても彼は帰ってこない。それだけは分かっていた。だから僕は、そこにいたくなかった。
それはほとんど無意識な行動だった。
頭はまだ動かず何も考えられてなかったのに、ここにいたくないという思いだけで僕はバッグを掴み、外へ出た。
目的地などない。
ただそこにいたくなかっただけ。
僕はただ歩いた。
遠くに行きたかったのかもしれない。
彼との思い出があるところから離れたかった。
その思いだけで、僕は歩いていたような気がする。
歩きながら、僕の頭の中では父の話がぐるぐる回っていた。
運命の番。
帰ってこない。
どこに行ってももう僕を愛してくれた彼はいない。
僕の世界の中から彼はいなくなってしまったのだ。
だから彼のいない場所に行かなければならない。
彼を思い出さない場所へ。
でも行ってどうするの?
彼はいないのに。
どれだけ歩いていたのか。
ふと心が動いた。
彼がいない場所に、自分の場所はあるのだろうか。
彼がいない将来に、僕がいる必要はあるのか。
そう思ったその時、腕を強く掴まれ後ろに引っ張られた。そしてその瞬間、目の前をトラックが猛スピードで通り過ぎて行く。
その勢いと衝撃に僕は我に返る。そして耳元で声がした。
「どんなに今が辛くても、それはいつか終わる。そして必ず幸せは来るから。だから今は辛くても、堪えて。頑張らなくていい。ただこの苦しみが終わるのを待っているだけでいいから」
我に返った僕は、自分が今何をしようとしたかを知ってぞっとした。そしてそれを止めてくれた人を振り返ったけれど、その時にはもうその人はいなかった。
家を出てからどれだけ時間が経ったのか、真っ暗になった道には誰もいなかった。その誰もいない道に、僕は交差点を前に立っている。
夢を見た?
どこからが夢でどこからが現実でなのか。
思い出そうとしてもどれもあやふやで、よく思い出せない。だけど、父の話は本当だと言うことだけは分かっている。
その時初めて僕は泣いた。
ようやく真実を飲み飲めたのだ。
誰もいない真っ暗な道端で、僕は馬鹿みたいに涙を流した。そして泣いて泣いて、ようやくその涙が枯れると、心が少し落ち着いた。
ぽっかり空いた大きな穴は埋まらない。
でも僕はようやくそのことを受け入れることが出来たのだ。
だから立ち上がろう。
立ち上がって歩こう。
彼がいなくなった未来でも、僕の未来は続いていくのだから。
僕はようやくそう思うことが出来た。
幸いその時は誰も通りかかることはなく、僕は不審者になるのを免れた。時間を見ると夜中の2時。僕は涙に濡れた顔を乱暴にゴシゴシと手で拭い、再び歩き出した。今度はちゃんと、意志を持って。
最初にしたのは食事だった。
24時間開いているファミレスに入ってごはんを食べた。思えば彼と家で食べた昼食以来何も食べていなかったのだ。空腹では頭は働かない。まずはちゃんとお腹を満たさなければ、正しい判断は出来ない。
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