運命と出会ったら

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そうしてお腹を満たし、これからのことを考える。 分かっているのは、もう彼との未来はないということ。 それは僕の胸を締め付ける。 当たり前だ。 ほんの少し前まで、彼は僕のすべてだったのだから。それをいきなり取り上げられて、平気でいられるはずがない。だけどこれはもう、変えることの出来ない事実。だから僕は、どんなに辛くてもそれを受け入れなければならないのだ。 でも大丈夫。 必ずこの痛みもいつか消える。 そしてその後は、幸せが待っているのだから。 彼を思うとギリギリのところで保っている僕の心はすぐに崩れそうになる。だけど僕は、その前に思い出す。僕を助けてくれた人の言葉を。 あの出来事はまだ夢のようで実感がない。だけど夢でもいい。あの人は僕を救ってくれた。そして彼の言葉は僕を励ましてくれる。だから僕はその言葉を胸に、先に進むんだ。 顔も見られなかったけど、抱き寄せられた時に香った香りはアルファのものだった。だからきっと、ちゃんと現実に存在するアルファだと思うんだけど、なんですぐにいなくなってしまったのか。だからなんだか現実味がない。だけど香りは覚えてるから、いつかまた会えたらお礼を言いたい。そしてその時、あなたの言葉のおかげで今幸せだと伝えたい。 正直今はまだ、この辛さがなくなって幸せになれるとは思えない。だけどあの人がそう言ってくれたから、僕はそうなるように頑張ろうと思った。もしも会えたなら、その時はちゃんとそうなっていられるようにしたい。 だけど、まだ僕は事実を受け止められていない。頭では分かっている。でも心は痛くて痛くて仕方がない。少しでも気を抜いたら、また涙が溢れて立てなくなってしまいそうになる。 だからもう過ぎたことは考えない。そんなことは無理だけど、考えないように努力する。そして前を見るんだ。 満ちたお腹は頭を動かし、心も落ち着かせてくれる。 とりあえずこれからどうしよう。 まだやりたいことは思いつかない。だからしたくないことを考えた。 僕はまだ、当然だけど彼のことを考えたくない。だけど生まれた時から一緒にいる彼のことを、僕の生活から排除することは出来ない。 住んでいるところはもちろん、実家は彼の家のお隣だし、両親ですら彼との関わりが深い。それに今持っているものも洋服すら、彼のことを思い出してしまう。 この腕時計だって・・・。 外出する時には必ず身につけていたお揃いの腕時計。あの日のまま、まだ手首に巻かれた腕時計を、僕は外してバッグに入れた。 彼を思い出さないようにしたい。 胸がじくじく痛い。だからせめて、目から痛みが起きないようにしたい。 僕はそのままファミレスで過ごし、これからすることを考えた。そして街が動き出したのを待って行動に移す。 先ずは銀行に行って僕の全財産を引き出した。そして新しく口座を作ってそこに入れる。 高校からずっと何かしらのバイトをしていた。そのお金を使わずずっと貯めていたから、それなりの金額があったのだ。これを元に、僕は新しい生活を始めようと思ったのだ。その新しい生活には、彼のことは一切持ち込まない。本当にまっさらな状態から始めるんだ。 まるで生まれ変わるように。 だから申し訳ないけど両親との縁も切る。とりあえず僕が彼を忘れられるその時まで。 きっと心配してると思う。だけど僕にとっては両親すらも彼を思い出す原因になってしまうのだ。だからごめんなさい。 僕は心の中で両親に謝り、身につけているものを全て新しく買い揃えて着替えた。財布もスマホも新しくして、IDカード以外のものを全てゴミ箱に捨てた。捨てる前にスマホで一応両親にメッセージは送ったけれど、その返事を見る前に僕は電源を切った。 最後に見た時、たくさんのメッセージが届いていた。そのほとんどが両親からだったけど、彼からのメッセージも来ていた。その通知を見ただけでも僕の胸は張り裂けそうなほど痛くなる。だから見られなかった。見たくもなかった。だからそのままスマホも捨てた。 いつかこの痛みが無くなるまで、その時までさようなら。 僕はこの日、僕のすべて・・・腕時計もすべて捨てた。
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