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部屋のドアを開けた俺は、仰々しいくらいの声で、帰宅を告げる。
「ただいま!」
「おかえりなさーい」
すでに真美は、俺の部屋で待っていた。
二人だけのクリスマスパーティーということで、夕方から準備してくれたらしい。テーブルの上には、美味しそうな料理が並べられていた。
適当な厚さにスライスされたバケットパン、粒がたっぷりのコーンスープ、ホワイトクリスマスを思わせる白いポテトサラダ、クリスマスツリーのようにこんもりと盛られたグリーンサラダ、黄色と緑のコントラストが鮮やかなホウレンソウのキッシュ。
テーブル中央に置かれたチキングラタンには、一目でわかるくらいにゴロゴロと鶏肉の塊が入っている。「クリスマスといえば鳥料理!」というイメージなのだろうか。
そして今夜の主役として、もちろんクリスマスケーキもその存在感を強くアピールしていた。俺が思い描いていた『クリスマスケーキ』は普通の白いホールケーキだったが、目の前にあるのは色も形も全く異なっている。
黒っぽくて、やや細長いケーキだ。確か、ブッシュ・ド・ノエルという名称ではなかったか。丸太を模したケーキだと聞いた覚えがあるが、そもそも『ノエル』がクリスマスを意味する言葉だったはず。ならば『白いホールケーキ』以上に、これこそが真のクリスマスケーキといえよう。
俺は文系ではなく理系、それも理論系ではなく実験系。化学反応が進むのを待つ時間とか、遠心分離機で長時間サンプルを回している間とか、電気泳動したゲルを染色・脱色のために浸けておく作業とか……。少しだけなら合間にフラッと一時帰宅して、用事を済ますことも可能なような、そんな研究をしていた。
今日も、そうやって夕方に軽く抜け出して、ケーキを買いに行くつもりだったのだが……。残念ながら思った以上に忙しく、複数の実験が重なり、その時間を作れなかった。せっかくのクリスマスなのにケーキ抜きになるかと心配したのだが、大丈夫、きちんと真美が用意してくれていたのだ!
「全部が全部、私の手作りってわけじゃないけど……」
まず彼女は冷蔵庫を開けて何があるか確認、それから食材を買いに出かけ、ついでに出来合いのものも買ってきたのだという。
まあ、見ればわかる。ホウレンソウのキッシュとブッシュ・ド・ノエルは、真美が作ったにしては整い過ぎているし。
「十分だよ! 一人でこれだけ用意するのは大変だったろう? ありがとう!」
俺はギュッと彼女を抱きしめると、感謝の気持ちを込めて、その頬にキスをした。
「こら、春樹。そういうのは後回しよ。まずは食べましょう」
「いや、俺としてもそんなつもりじゃなくて……。まあ、そうだな、さあ、食べよう!」
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