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「気持ち悪い話ね……」
今や真美は、激しい嫌悪の表情を浮かべていた。
「まあ、それはそうだが。もう食べてしまったからなあ」
努めて軽い感じで言ってみる。
いや、俺だって気味が悪いとは思う。だが毒が入っていたわけではないし、あからさまな異物が入っていたような歯ごたえもなかった。少なくとも今のところ、体調は悪くなっていないのだ。
だから俺は、真美の背中に優しく手を添える。
「もう忘れようぜ。美味しいケーキだったから、いいじゃないか」
「良くないわよ」
真美は眉間にしわを寄せて、俺の手を払いのけた。
「私が買ったのでもなく春樹が買ったのでもないケーキが、どうやって冷蔵庫に入ったの? あなた理系でしょう? 理屈で説明できない現象、嫌じゃないの?」
こんなところで理系とか文系とか持ち出されても困る。
俺が何も言えないでいると、
「どう考えても……。私でも春樹でもない別の人が、私たちの知らないうちに、部屋に上がり込んで冷蔵庫に入れたのよね? じゃあ誰? 留守の間に入ってくるって、泥棒かしら? それともストーカー?」
真美は、突拍子もないことを言い出した。
「どこからストーカーなんて発想が出てくるんだよ……」
「だって泥棒ならケーキ差し入れする方じゃなくて、逆に盗む方でしょう?」
「まあ、そうだけど……」
一瞬「プレゼントしてくれる方なら、じゃあサンタさんかな?」と口にしそうになったが、それこそ「サンタなんているわけないでしょ!」と返されるだろうから、ギリギリで思い留まった。
「だったら、ストーカーしか考えられないじゃないの。おおかた、まだ春樹に未練たらたらの元カノがいるのよ」
そう言って彼女は、ポケットから鍵を取り出し、俺の目の前でチラつかせる。
付き合い始めた時に渡した、俺の部屋の合鍵を。
元カノ。
確かに、そう呼べる女性は、俺にも存在していた。
クリスマスを一緒に過ごす恋人は真美が初めてだとしても、彼女が人生で初の恋人というわけではないからだ。
だいたい夏くらいに恋人が出来て、秋になると別れる……。それが俺の恋愛パターンだった。
判で押したように、三ヶ月だ。これまでの恋人は全員、ほぼ三ヶ月が経過した時点で、俺の元から去っていく。
この経験は「いつも三ヶ月でフラれるんだよなあ」と冗談めかして、真美にも話してある。まだ恋人関係になる前、ただの先輩後輩だった頃に。
俺は話したことすら忘れていたのに、真美の方では覚えており、付き合い始めてちょうど三ヶ月の日に「今日は記念日だから! 記録更新の!」と言って、豪勢な手料理を振る舞ってくれたくらいだった。
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