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お嬢様は、帰りの馬車に揺られながらも、術式の練習をしていた。
合成も、言霊も、詠唱も。
少しづつは良くなっている。
けれど、出来上がるのはいつも硬く、鋭く、小さい木の葉だった。
「これでは、ナイフというよりも、カミソリですの」
「でもそれはそれで、使いようがありそうです」
「何にですの?」
「手紙の封を開けるのにちょうどよろしいかと。あと林檎の皮も剥けそうですわ」
メイドとリース様のそんなやり取りを、私は馬車の中で聞いていた。
行きは私が御者台に座っていたが。
帰りはミラが座りたいと言うので、そのようにした。
ミラの能力なら、馬車に居ようと、御者台に座っていようと、賊や魔物を弾き返すのは容易だろう。それは問題じゃない。
ただちょっと、御者係のメイドがミラの相手に辟易するだろうけれど。
しかしながら。
魔の領域から、お屋敷までは三日と半日ほどかかるのだが。
その1日目、2日目、3日目、とリース様の魔術はだんだんと精度を落としてきていた。
理由は簡単だ。
魔素の濃度が通常の状態に戻っていっているからに他ならない。
けれど、第六感は既に獲得しているし、魔術の流れも感じれているし、合成のコツはもう掴んでいるのだ。
全くできなくなるということはあるまい。
そう思っていたのだが――。
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