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「やめなさい、ペリシー!」
それで、メイドは大人しく引き下がった。
はぁ、助かった。
私は、限界になりつつあった筋力を弱め、手から短剣がカラカラと零れ落ちる。
そうしてそのまま、私からの魔力供給を失って、残滓となって消えていった。
お嬢様の気配が、近くまでやってくる。
「……ただ、上手くできなくて、自分が情けなくて泣いていただけです。先生のせいじゃありませんわ」
「そうだったのですか」
メイドが、騎竜から降りる。
ブラシを地面に置き。
「勘違いして申し訳ありませんでした」
そうして、手綱を握りつつも、深々と頭を下げた。
「い、いえ……」
「わたくしからも、ごめんなさい。ペリシーには暫く謹慎させますわ。それと、わたくしも、逃げてしまって……」
お嬢様からも頭を下げられる。
「い、いえ! 気にしないでください、リース様」
そしてメイドは、謹慎の言葉に情けない声を漏らしていた。
「そうだ……」
私はリース様に、先ほど気づいたことを説明する。
この屋敷の敷地の中は、魔術を使うには厳しい状態なのだと。
だから――。
「明日、早めにいっしょに学園に向かいましょう。そこで、やってみて出来なければ、今日やろうとした秘策でサポートいたします」
それでもダメで、試験に落ちてしまったら。
その時は仕方がない、大旦那様に謝罪の手紙を出し、目標を春の入学に変更することへのお許しを、お願いしてみよう。
……わかりました。
お嬢様はそういうだろうと思っていたが。
「――嫌ですわ」
「はい?」
「……わたくし、もう逃げません。先ほどの秘策、もう一度、今、お願いできませんか?」
そこには決意が滲んでいる。
「……ずっと、この楽しかった日々のお返しをしたいと思っていたのです。でも、わたくしに出来ることは、先生の教えに報いることくらいですわ。――なのに、その先生から逃げていたのでは、お話になりませんもの」
だというのなら、先生は生徒に応えねばなりませんね。
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