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私は、ここにきて一度も当主に会ったことは無い。
旦那様とも大旦那様とも、一度もお目にかかったことが無い。
恐らく多忙過ぎるか、別の理由で、屋敷に戻ってこれないのだろう。
そして、魔術に長けた者が居ないこの屋敷は、瞬時の連絡手段も乏しいに違いない。
通信機器の魔道具は、中々開発が進んでいないため。
急ぎの連絡は、通信用の魔術を習得した魔術師を利用するしか無い。
今から魔術師ギルドに赴き、手続きをしていたのでは時間もお金もかかる。
これらの予想を利用して、私はダメ押す。
「……クラスリー当主に了解を取りますか? でもそんな時間は無いのでは?」
メイドは力なく頷く。
「はい。旦那様も、大旦那様も、当分お戻りになられないと聞いています」
ここ一週間。
リースリット嬢のお目付け役は、3人ほどのメイドがローテーションで行っている、ということを私は見ていた。
このメイド達には、リースリット嬢の身の安全はもちろん、魔術の習得に関しても責任があるのかもしれない。
そしてついに、メイドは覚悟を決めたらしい。
「分かりました、その代わり、私と馬車の御者が出来る者が一名同行いたします」
メイドと私のやり取りを見ていたリースリット嬢が言う。
「……魔の領域。聞いたことがありますわ。様々な魔物が出入りする危険な場所だと。それに分かりますわ、そこまでしなければならない程、短い期間で習得できるほど魔術の修練は簡単じゃないのだと。……でもセナ先生とご一緒なら、安心ですわ、ね?」
「はい。魔物に負けたことが無いのが、私の自慢ですから。ご安心ください――あなた達のうちだれ一人、魔物に手出しはさせません」
ところで。
と、私は周囲を見渡す。
「どこかに、大きな鏡はありますか?」
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