リースリット と 魔術基礎実習

30/137

23人が本棚に入れています
本棚に追加
/137ページ
 私たちは走っていた。  ひたすらに。  周章狼狽。  右顧左眄。  右往左往。  最終的に。   通りすがりのメイドに事情を話し。 「ああ、お屋敷から出るだけでしたら、あちらから出れますけど」  との案内で。  やっとの思いで、屋敷の外に出たは良いが。    出てからも。   庭の垣根や、茂みや、森や、林や、別館や、川や、池や、堀や、石垣や、二重三重四重五重のまごうこと無き物理的な壁に阻まれて、自分たちの居場所を見失っていた。  正門の方角は解っている。  しかしそれは完全に真逆の方向だ。  決して直線距離で行くことはできない。  ぐるぐると迂回させられるような作りの道や。  死角と分岐路だらけの道。  賊への防御策として様々な手法を施したクラスリーの庭は。  まさしく城の建築様式に近いものがある。  そこには、魔術的な防御も含まれているのだ。  いちいち解呪していたらキリがない程に。    だから、まだ私達の右往左往は続いている。  冷や汗を垂らし。  焦燥に駆られ。  時間的余裕がなくなってきたんじゃないかと思っている頃に。  とうとう、助手はしびれを切らしたらしい。   「……ね? ……あるじ?」 「何?」  隣を走る純白の小柄娘(ちびっこ)に。  私は億劫気味に返す。  そして助手は、私が聞きたくなかった言葉。  判り切った質問をする。 「ここ、どこ……?」
/137ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加