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私たちは走っていた。
ひたすらに。
周章狼狽。
右顧左眄。
右往左往。
最終的に。
通りすがりのメイドに事情を話し。
「ああ、お屋敷から出るだけでしたら、あちらから出れますけど」
との案内で。
やっとの思いで、屋敷の外に出たは良いが。
出てからも。
庭の垣根や、茂みや、森や、林や、別館や、川や、池や、堀や、石垣や、二重三重四重五重のまごうこと無き物理的な壁に阻まれて、自分たちの居場所を見失っていた。
正門の方角は解っている。
しかしそれは完全に真逆の方向だ。
決して直線距離で行くことはできない。
ぐるぐると迂回させられるような作りの道や。
死角と分岐路だらけの道。
賊への防御策として様々な手法を施したクラスリーの庭は。
まさしく城の建築様式に近いものがある。
そこには、魔術的な防御も含まれているのだ。
いちいち解呪していたらキリがない程に。
だから、まだ私達の右往左往は続いている。
冷や汗を垂らし。
焦燥に駆られ。
時間的余裕がなくなってきたんじゃないかと思っている頃に。
とうとう、助手はしびれを切らしたらしい。
「……ね? ……あるじ?」
「何?」
隣を走る純白の小柄娘に。
私は億劫気味に返す。
そして助手は、私が聞きたくなかった言葉。
判り切った質問をする。
「ここ、どこ……?」
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