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「本来は王族に謁見する時に利用する馬車なのです……。それを、魔の領域だなんて物騒な場所に――、こんなデコボコの道をですよ?」
街道は舗装されてはいるが。
やはり首都内部とは精度がまるでちがい。
高価な馬車所以の、整ったサスペンションが無ければ、もっと耐えられない物だろう。
御者台も、馬車の中も。
座面はそれなりにふわふわで居心地が良いので、全然マシなのだが。
お屋敷暮らしの面々にとっては不満の種のようだ。
それにたしかに、行商人の行き交う街道をこんな高貴な馬車が走るのは、ありえないことかもしれない。
しかししょうがない。
3か月で、魔法の行使を可能にするなんて、そもそもあり得ない事なのだから。
あり得ない物をあり得るようにするためには。
いろいろな無茶が必要なのだ。
「まぁまぁ。これもお嬢様のためだと思って頂けません?」
「それはそうですが。もっとマシな方法は無かったんですか?」
そんな感じで、私が御者のご機嫌を伺いながら愚痴を聞いていると。
ちょうど、景色が平原一色になってきた頃合いで。
馬車の中から薄っすらと話声が漏れてくる。
「あの、ミラ様……?」
リースリット嬢の声だ。
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