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オーガはミラを渾身の力を込めて殴ったのだろう。
だから、右腕を失うことになったのだ。
「すまないミラ、遅くなった。……お嬢様は?」
「そっち」
ミラの視線を追うと、お嬢様とメイド二人は馬車の中に避難しているようだった。窓から覗く姿は震えているようだけれど。
何にせよ無事でよかった。
ぐぉぉぉ……!
「……ガルグ……リダ……グルス――……」
そうこうしていると、オーガは唸りを上げた後、何かを呟き始めた。
「これは……」
おそらくオーガの言葉による魔術の術式詠唱だ。
そして間もなく、詠唱が完了し、完成した術式が展開される。
大量の火の現象核を巻き込んで、撃ちだされたのは巨大な火の玉だった。
私の知る術式では、『大火球』と呼ぶモノに近いだろうか。
けれど、その術式はミラの身体に接触する直前で標的が術者に書き換えられる。そうして、何倍もの威力に増幅されて跳ね返されるのだ。
長い髪を爆風に乱されることも無く。
白い華奢な肢体を炎にさらされることも無く。
ドレスも、靴も、傷一つないまま。
儚げな少女は、変わらぬ美しさのまま。
ただ、攻撃者の自業自得を見届ける。
盛大な爆発と火力の全てを受けたオーガは。
自分の放った魔術で跡形もなく消え失せた。
残ったのは地面をくすぶっている残り火と。
肉の焼けた匂いだけだった。
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