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「先生!」
翌日、私が指定された部屋に入ると。
歓喜と元気の乗った、美声が出迎える。
準備万端、気合十分といった感じで。
リースリット嬢は既に待っていた。
「ありがとう」
私は部屋まで案内してくれたメイドに礼をいう。
すると。
「何かありましたら声をかけてください」
メイドはそう言って部屋の壁際まで下がった。
このまま部屋に残るつもりのようだ。
私は、少し歩き、リースリット嬢の座るテーブルの傍に立つ。
「それにしても、すごい部屋の数ですね」
「そうなのです。おかげで、わたくしも良く迷ってしまいますの」
クラスリーの屋敷は、メイドの案内が無ければたどり着けない程の部屋数と廊下の数を誇る。
外から見た時に、城かと思うほどだったが。
正に、中も外も城だと言ってもおかしくない程の広さと大きさだ。
クラスリー家は王の血筋に近縁の家柄という話だから、納得のいく事柄なのかもしれないが。
それを差し引いても、授業に使っていいと当てられた部屋は、やはり当然のように豪華な部屋で、家具も調度品も目を奪われるほどに立派なモノばかりだ。
けれどどの芸術品よりも。
窓ぎわで咲き誇るフラワーアレンジメントよりも。
小柄で可憐なお嬢様の存在感の方が、造形も華やかさも上だった。
私は本当に、こんなお方の先生で良いのだろうか。
そんな疑問に苛まれていると。
「ところで先生? 今日は座学だと伺ったのですけれど……?」
リースリット嬢は、私が手ぶらなのを訝しむ。
テーブルには、ペンと紙が用意され、勉学への気合十分といったところだが。対する私の手には、ペンはおろか教材と思わしきものは何一つ用意されていない。
「心配ご無用ですよ。教材は今から取り出します」
「取り出す?」
「ええ」
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