リースリット と 魔術基礎実習

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「優しさ? セナ様の……?」  お嬢様はギリギリ聞き取れるくらい小さくそう言って。  少しだけ動きを止めると。  今度は慌てたように、口早にミラに尋ねる。 「あ、あのあの……ッ。ミラ様から見て、私の術はどうでしたか? お昼に見ておられましたわ、よね?」 「……どうって? ぜんぜん出来てないのに?」 「あうっ!」 「――……糸」 「糸?」 「服を作るのに糸がいるんでしょ?」 「え? はい?」 「合成が糸、術が服」 「ふ、ふく……ですか?」 「そう。頑張って」 「は、はい」  頑張って。  じゃないわ。  私は遠くで頭を抱えて溜息を吐いた。  言葉が足りなさ過ぎて全く意味不明だ。  お嬢様も困惑している事だろう。  恐らく、それは昔、私がミラに言った言葉だろう。    術式とは、糸で服を作るようなもの。  糸の品質が服の品質。  作った糸に“どう縫ってどう服を作り、どのような服にするのか”を指示しなければいけない、って。  ミラはアドバイスのつもりなのか励ましのつもりなのか。  どっちにしろ、ダメ過ぎる。  しょうがない。  その話は明日お嬢様に詳しくお話するとしよう。    そうして、ミラとお嬢様はそれから少しの間他愛もない話をして。  眠くなったというお嬢様は馬車に戻っていった。  結果的に、お嬢様は余分な魔気(オド)を使わずに済んでいた。  ミラがそこまで考えてちょっかいをかけているとは思えないが。  少しだけ感謝しておこう。  と思ったけど、今まで色々ヤられているので、相殺だ、うん。
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