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「ああ、清水さんが謝る必要なんてないから。『子どもいなくて将来どうするの?』とか『子無しの共働き(DINKS)って贅沢できて羨ましい』なんかは正直気分は良くないけど、貴女のは全然違うもの」  これは私の謝罪なの、と真寿美が続けた。 「とは縁がない方がいいっていうのは本音よ。でもあの言いようはなかったわ。ごめんなさいね」 「そん、……内藤さんこそそんな風に仰らないでください。あたしが無遠慮で踏み込みすぎたんです。だから──」  訥々(とつとつ)とどうにかそれだけ口にした千恵理に、真寿美は「気にするな」と伝えるように小さく首を左右に振る。 「私はこれからもずっと、このペンダント(ジェット)を離さないと思う。だからもし目に入っても知らん顔してくれたら嬉しいわ」  無神経な後輩に対するものとは思えない優しい笑み、温かな声音。 「もちろんです。あの、これからは他の人の事に首突っ込んだりしたりしないように、本当に気をつけますから!」 「清水さんには黒よりいつも着てる明るい色(パステルカラー)の方が似合ってる。急がなくても年は取るし、その分経験も重ねて行けるんだから背伸びも真似も要らないでしょ。『今のあなたの色』を大事にして」  ゆったりと頷いて返してくれる真寿美に、千恵理は自分自身の未熟さを痛感する。 「仕事ができる、キレイでカッコいい大人の女」といった表面的な憧れだけで彼女を見ていた。  しかし、真寿美が話してくれたことで彼女の真の強さを理解できた気がする。  ペンダントもファッションもがこれ程までに似合うのは、きっとこの人が本質的にだからではないか。  黒に黒を重ねても、ただぼやけて溶けてしまう。  ──やっぱりあたしはあなたのような『キレイで強い大人』になりたい。いま口にしたら安っぽいから黙ってるけど。  言葉にしなくても、そのための努力はできる。  千恵理はその決意を心に刻みながら、これからも前に進む気持ちを新たにした。  真寿美のように強く優しい大人の女性になれるよう、自分自身の道を歩むために。                             ~END~
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