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◇ ◇ ◇
それからしばらくして、千恵理は終業後の更衣室でまた真寿美と一緒になった。
さり気なく彼女に目をやると、まだ上までボタンを止めていないブラウスの襟元に例のペンダントらしいチェーンが見て取れる。
実は初めて見たあの日からずっと気になっていたのだ。
迷った末に、千恵理は思い切って訊いてみることにした。
「あの、内藤さん。それ、……そのペンダントってオニキスですか? あたしもそういう洒落たものが似合うオトナになりたいな〜、なんて──」
「ならなくていい!」
千恵理の台詞を遮るような、彼女の鋭い声に固まってしまう。
普段の先輩にはあり得ない、決して見せない姿に。
「あ、──ごめんなさい清水さん。私……」
真寿美は自らの言葉に貫かれたように口籠り、千恵理に軽く頭を下げたかと思うとバッグを掴んで素早くその場から立ち去った。
いつも隙なくきちんとした彼女が、一番上のボタンも止めないままに。
何か気に障ることを口にしてしまっただろうか。
いちいち詮索されるのが嬉しくない、というのは少し考えればもちろんわかるものの、あの反応に繋がるとも思えなかった。
彼女の対応が不快だったわけではない。
どんなときにも落ち着いた態度を崩さない真寿美の、尋常ではない様子がただ意味不明で不安が押し寄せて来た。
明日にはまた必ず顔を合わせる相手なのに、いったいどうすればいいのだろう。
千恵理は更衣室のドアが次に開くまで、混乱したままその場に立ち尽くしていた。
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