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再度逃亡を決意する
麗楊が身体の重さを感じながら目を開けると、そこは寝台で婁阿の姿は見当たらなかった。それこそ、陸や柚鈴の姿も見当たらない。
身体を起こそうとすると、全身にとてつもない痛みが走った。主に腰あたりが。
「いっ……!な、何…!」
痛さに腰を抑え悶える麗楊。なんなら声も枯れていて喉が痛い。そして関連する事を考えた時、昨晩の情事の事を思い出した。
『もう、やだ…!う…あ…おかしくなる…!』
『おかしくなればいいさ。俺に溺れれば良い』
『婁阿…るお…お願い!ちょっと…んんっ…休憩…あっ…』
『可愛い…だが、そのお願いは聞けないな』
どれだけやめてと懇願しても、婁阿から与えられる重みが止められる事はなく、快楽で頭がおかしくなりそうなのを必死に自我に縋り付いてた麗楊。
その結果更に婁阿を興奮させる材料になり、結局朝方まで行為が終わる事が無かった。
麗楊は力強く拳を握る。
ーあの絶倫…!僕は初めてだぞ…!?
怒りを通り越して憎らしい感情が芽生えそうだ。男の情事など知り得なかった為、自然と麗楊が受け止める側になったが、これだけ大変なら無理矢理にでも逆の立場をもぎ取れば良かった、など思うが自分が婁阿に突っ込むという想像もできなかった。
仰向けになって乾いた笑いが出てくる。まさか、初めての艶事の相手が男になるとは。
すると部屋の扉が開いた。入って来たのは、軽い衣服を着て涼しい顔をした婁阿だった。
ー絶対逃げ出してやる…!
と、固い決断をする麗楊だった。
その後に大きい皿に、切られた果実が沢山乗った物も携えているのに気付く。婁阿は麗楊が起きているのに気付き満足気に微笑むと、その瞬間麗楊の翡翠の瞳が恨めしい眼差しで婁阿を見据える。
「起きたな、麗楊。気分はどうだ?」
「良いと思うか…?」
寝台に腰掛け麗楊の様子を伺う婁阿。
麗楊から返ってきたのは、皮肉を含んだ言葉でそれすらも可愛いと微笑を浮かべた。
「昨日は我慢しない、と決めてたんだが、まさかあんなに歯止めが効かなくなるとは思わなかった。すまない」
「我慢しろよ。こっちは初めてなんだぞ!」
「あっはは。初めてじゃ無かったら相手を殺してるさ」
笑顔でそんな物騒な事を言ってのける婁阿。冗談だと思うが麗楊はもうすでにこの男の事を理解している。
あれだけ行為中愛してるだの、側に居ろだの可愛いだの言われ続けたらその想いは本物で、相手を殺すというのなら本当に殺す気なんだろうな、と。
苦笑いをする気にもならない。愛の重さに引いてしまう。
麗楊にとっては昨日が初対面なのだから仕方ない。
「…というか腹が変。お腹下したみたいに気持ち悪い」
「ああ、昨日中に沢山出してしまったからな。掻き出したつもりだったが、やっぱり残ってしまったか」
「……は…」
段々と意味を理解し顔が火照り出す麗楊。その様子に婁阿は卑しく笑みを見せた。
「昨日の、思い出してしまったか?ん?」
「この変態…!」
「本当に愛いな、お前は。こう見えて俺も反省している。だから今日は動けないお前の世話をするよ」
そう言うと婁阿は麗楊を抱き上げ自分の足の間に座らせた。後ろから包まれるように抱き締められている麗楊はされるがままだ。抵抗しようにも身体は動かない。
むしろ自分が罰を受けてる感覚にすらある。
「ほら。果物を持ってきた。食べさせてあげよう」
「…くっ…」
林檎、蜜柑、葡萄、蜂蜜につけた梨など、盛り沢山の果物が麗楊の口へと運ばれる。
水分と糖分を摂る事が出来、重かった身体も少し回復している感じがした。
不服だが口を開けて次の果実が運ばれるのを待機する。麗楊の頭の上で、婁阿が穏やかな笑みを浮かべているのが感じ取れる。
「…というか、陸は?柚鈴も」
「ああ。3日は夫婦水入らず、ここには誰も来るなと言ってある」
「え?」
「だから、麗楊の世話は俺がきちんとするから任せておけ」
「一番任せておけないんだけど?」
嘘だろ?と思い頭上を見上げると、婁阿のその顔は本気だった。三日間も二人きりなんて、乗り越えられる自信が無い。そう確信する麗楊。
「腹ごしらえしたら、按摩ほぐしをしてあげよう」
「それはどうも」
「麗楊」
「なに…んっ」
不意に唇が落とされる。そして当たり前のように舌がするりと入ってくる。
麗楊は最初は逃げたが、後頭部に回された婁阿の手により逃げる事は許されず舌を吸われた。
「ん、甘い」
唇が離れ、婁阿が少し舌を出し見せる。その光景が揶揄われている分かり、麗楊は婁阿の鳩尾に鉄肘を喰らわした。
「ははっ。元気で良い。さ、麗楊。沐浴しようか」
「は!?いい!別に要らない!」
「駄目だ。きちんと拭いたが、湯に浸かり流さねば。それに髪も洗いたいだろう?」
「それは…」
そうだ。
もういいか、と思い麗楊は婁阿に身体を預けた。婁阿は麗楊を横抱きに抱え、部屋から出る。
廊下を渡り着いた先は、外に設けられた湯殿だった。木材で囲まれ、三角の屋根があり肌触りの良い木が正方形の中に湯が張られていた。
そして中には何かが浮いてるのが見える。
「この湯殿は麗楊の為に造らせた」
「え、わざわざ?」
「わざわざではない。大事なお前が少しでも落ち着ける場所を作っておきたかった。お前のお母上に尋ねた所、龍翠国に似た湯を作るのはどうかと言われ、作った。麗楊は湯浴みが好きと聞いたのでな」
「そ、うなのか…」
「この湯には柚子の皮と洛神花を刻んで入れている。この二つを入れると、龍翠国の天然に湧き出る湯と似るそうだ」
婁阿はゆっくり麗楊を湯の中に降ろす。麗楊は手の平に湯を集め匂いを嗅いだ。
「…本当だ。似ているし、龍脈の気配も少し混ざってるような…」
「龍脈?」
「大地に流れる龍の力の事。龍翠国を中心に広がって行ってら龍翠国から離れる程力の恩恵を受けにくくなってしまうんだ。証拠にほら」
そう言って麗楊は左太腿を婁阿に見せる。布越しでも分かる、麗楊の左太腿の外側にある鱗が形をしっかり取り明確な翡翠の色を出していた。
「龍脈を感じると僕のこの鱗は反応する。凄いね」
「ほう。本当に効果があるとは。お母上に感謝せねば」
「……あと婁阿にもだな」
「俺か?」
「普通そんなあっさり造っちゃうか?おかしいだろ」
眉を八の字にし緩く微笑む麗楊。そんな麗楊に見惚れる。初めて笑みを見せてくれた、と。
「これは、とても嬉しい。ありがとう」
「…どういたしまして。喜んでもらえてよかった」
「というか、昨日は考えてる余裕なくて何も思わなかったけど…この鱗見ても何も思わないのか?」
「別に何も。むしろ、色っぽいから誰にも見せて欲しくないな」
「やっぱ馬鹿だ…」
ーそんな事初めて言われたな。
鱗が出るのはそれだけ龍の血を濃く受け継いでいるという事。
龍翠国では縁起のいいものとして敬られるが、他所ではそうなるとは限らない。その為、麗楊は婁阿の反応が新鮮だった。
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