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プロローグ
それはもう雷を受けたようだった。
二年に一度の武術大会。参加形式は自由。
今年は予想外の人物が居た。
それは国外にあまり出ないと言われている龍の民。
しかもその国の若君と来た。
その姿を一目見ようと野次馬が殺到する。
そんな事を全く気にして無い様子で堂々と舞台に上がる若君はまだ少年の面差しをしていた。
そして誰もが目を奪われる。
龍の民、しかも王族の特徴である翡翠の髪に同じ色の瞳。肩ほどの髪は後ろで束ねられ、赤い房の耳飾りが鈴の音を小さく鳴らす。
龍の刺繍が施された白い生地の衣服はとても軽そうで、存在をより際立たせた。
それに目を奪われたのは何も容姿だけでは無い。
羽のように飛び回り、洗練された軽快な動きは舞を踊っているかのように鮮やか。攻撃手段は拳だけだというのに、隙を与えない動きに誰もが魅入る。
そして若君本人がとても生き生きしてるではないか。
これは一目惚れだ。
そうに違いない。
群衆に紛れ、目ではなく心を奪われた男が一人。
どうしても、彼が欲しいと願った。
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