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望海
―――え、漏らした……?
下半身がやけに冷たい感覚に、思わず飛び起きた。
いつもは母親にしつこいくらいに起こされないと起きないのに、湿った感覚に思わず背中と思考が凍る。
―――いや、マジで赤ちゃんじゃん!!!
シーツやズボンに染みになるほどではないけれど、パンツはぐっしょり濡れていた。
居た堪れない気持ちでベッドを出ると、カーテンの隙間はほの暗い。
このまま眠れるわけもなく、ゆっくりと階段を下りて風呂場に向かう。
張り付くパンツを無理やり脱いで、シャワーで下半身と一緒に軽く流す。
少量だったせいかアンモニア臭はまるでなく、頭を傾げながら新しいパンツを身に着けた。
眠り癖はあっても、おもらしなんて幼稚園時代にも片手で数えるくらいで……
自分の身体に不安を覚えながら検索をかけると、夢精の文字に瞬きを繰り返す。
―――え、これが夢精なの?精通したってこと……?
名前は知っていても、全く実感が湧かない。
保健で学んだ程度の知識で、今までスマホもパソコンもない不自由な生活を送っていたから、自分が大人になることが衝撃だった。
パンツの中を覗いてみても、相棒はいつものように大人しく萎んでいる。
周りとそういう類の話をしたこともなく、咲に聞く勇気はない。
―――俺がきたってことは、咲も精通してるのかな……?
俺よりも発育良さそうな身体を思い出し、そのまま下半身も想像しそうになって、思いきり頭を振るう。
小学校時代にお泊りをした流れで一緒に風呂に入った記憶はあるが、身体がどうだったかなんて覚えていない。
―――ど、どうしよう!!咲の裸を想像しちゃうなんて……俺、すげえエロくなってる!!!
聞きたいけど、絶対に聞けない性事情。
咲と猥談なんてしたことないし、俺はすぐに顔に出そうだから無理に決まっている。
小学校でスカート捲りが流行っている時、女子のパンツに興味がなかった。
女子に告られても、面倒くさい以上の感情が芽生えない。
アニメや漫画で女子のパンチラや服が透けるシーンにときめくことも、女子の話をする時に恥ずかしがることもない。
そんな俺を咲や陽兄は、赤ちゃんだからという言葉で括っていた。
―――だけど、本当にそうなのかな?俺がまだ幼いだけ……?
腑に落ちない気持ちになるのは、咲がすきだからということだけが理由じゃない。
女子と話す時よりも、男子と話す時のほうが緊張する。
女子の水着には無関心なのに、男子の着替えは恥ずかしくて見ていられない。
男が怖いという気持ちが払拭しきれてないことも原因だとは思うけれど、どうも女子に対して関心が薄すぎる。
―――だから、もしかしたら……俺はオカマなのかもしれない。
小学校時代に虐められて、毎日泣いていたはずなのに……
キスされたり股間を掴まれ侮辱され、咲に大けがまでさせて守ってもらっていたはずなのに……
男に対して、女子以上に関心があるのは確かだった。
咲がだいすきなのはもちろんだけれど、男が好きなのかもしれないという疑問はずっとある。
特に確かめる術もなかったけれど、精通した今なら確かめることができる。
―――男とエッチなことができれば、俺は男がすきってことだよな?てか男同士って何すんの……?
そう思うと居ても立っても居られず、スマホを取り出して何気なく男同士のセックスについて調べてみる。
ケ、ケツにちんこ挿れんの?
無理じゃね?無理無理!
すげえ痛そう!てかすげえ怖いじゃん!!
咲に突っ込まれている自分を妄想し、青くなりながらスマホを閉じる。
ゆっくりと階段を上って部屋に戻り、しっかりと鍵を閉める。
ベッドに胡坐をかいて深呼吸を繰り返しながら、生まれて初めてゲイ向けのエロサイトをクリックしてみた。
18禁という言葉に胸を躍らせながら薄目で覗いてみると、男たちが裸で絡み合う姿に思わず顔を手で覆う。
指の隙間から見てみると、女役の男がよがり狂っていた。
―――テレビでみる男女のベッドシーンには無感情だったのに、男同士となるとなんでこうも恥ずかしくなるんだろう……?
一心不乱に腰を振る男と、気持ちよさそうによがる男を見つめているうちに、痛そうという印象が薄れていく。
それを自分と咲に置き換えると、顔が灼けるほど熱くなった。
そのドキドキを抱えたまま、おそるおそる股間に手を伸ばす。
身体を洗う時に触るくらいのことはあっても、こんな風に触ったのは初めて。
眠くなった時に気がつくと勃っていることはあっても、しばらくすると勝手に収まっている。
でも今日は触れると芯が硬くなっていて、扱くと背中に快感が走る。
小学生の頃に触られて勃起したことを思いだし、恥ずかしさで身体が火照る。
それはさすがに、咲にも言えなかった。
触られたことは伝えても、自分がそれで反応していたことを絶対に知られたくなかった。
無理やり勃起させられて、それを笑われる屈辱。
男に触られて反応する疚しい自分を、咲に知られて幻滅されたくない。
泣きたくないのに涙が溢れて、自分の身体なのにコントロールが効かないソコが怖かった。
快感が怖いに直結していたから、快感を覚える自分に羞恥心と嫌悪感を覚えていたから、今まで自分でソコに触れるのも怖かった。
それなのに、今は快感を得ようとする自分に罪悪感を覚えながら扱いていると、そこが徐々に熱を帯びる。
夢精でイっても何の感情も湧かなかったのに、自分の手で大きくなる姿をじっと見つめていると、耳の当たりがやけに熱い。
そのまま手を動かし続けると、性器からぬるりとした液が滴る。
男に弄られた時は出口の見えない快感が怖かったのに、イってしまうとその瞬間に恐怖が消えた。
一瞬とはいえ頭が真っ白に染まるほどの快楽は、なんとも言えない高揚感がある。
「マジで、出たわ……。」
知識として知っている事と実際に経験することは、全く違った。
身体が妙に熱くて、フワフワとした気分のまま枕に顔を押し付ける。
―――俺、大人になっちゃった……!
家族にも咲にもずっと赤ちゃん扱いされていたのに、もうセックス出来る身体なんだと思うと、妙にウキウキして気分がいい。
興奮したせいか妙に疲れて、鍵を開けるのをすっかり忘れて目を閉じた。
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