蛇に睨まれたオオカミ

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「咲、おはよ。」 昨日と変わらない眩い笑顔で、のぞが家からひょっこりと顔を出した。 エロサイトを見ていたことを俺に気付かれたなど全く気がつかない様子で、いつもの爽やかな笑顔を見せてくる。 ―――このクソ可愛い顔で、マジでオナってんの? 「咲は寝不足?クマできてる。」 「……のぞはもう平気なの?」 「いっぱい寝たから。」 「元気そうでよかった。」 横顔はいつもよりも晴れやかで、なんだかこちらまで幸せそうになる笑顔だった。 「昨日どうしたの?」 「何が?」 「急に帰ったじゃん?なんかあった?」 「あー……。」 思い切り言葉に詰まると、のぞが焦ったように言葉を繋げる。 「プリンとゼリーありがとね。めっちゃおいしかった。新作のも買おうと思ってたから、すごく嬉しかったよ。」 「よかった。」 「母さんがそのお礼にイチゴ。」 「イチゴ?のぞのほうが好きじゃん。」 「ま、そうなんだけど……弁当の時に食えって。」 「お礼言っといて。」 「うん。」 とりあえずのぞは元気そうだし、顔色もいいことに安心しながら…… ただのぞの性事情だけが、心にずっと引っかかっていた。 *** 「じゃーん。」 昼休みにいつものようにのぞの教室を覗くと、俺の前に大きめのタッパーを得意気に見せつけてきた。 余裕で2パックはある量で、大きめの鮮やかな色のイチゴがぎゅうぎゅうに詰まっている。 のぞの弁当箱の倍以上の大きさで、デザートというよりも主食のようだ。 「これを2人で食えと?」 「俺がイチゴだいすきだから。」 ニコニコ笑顔を浮かべたのぞがかわいすぎて、比べるまでもなくこちらの方が断然美味そうだった。 にやける口元を隠しながら、のぞを見つめる。 「それは知ってるけど。」 「ほら、あーん。」 「は?」 「あーん。」 フォークをぶっ刺したのぞが、俺の目の前にイチゴを差し出してくる。 にこやかに微笑んでいて、断れる雰囲気では全くない。 口を開けると酸味はなくジューシーで、甘さが際立っている。 「どう?」 「こんな美味いイチゴ、初めて食ったわ。」 「そう?よかった。」 のぞも嬉しそうに微笑むと、躊躇することなく俺が使っていたフォークで自分もイチゴを頬張る。 顔が小さいから、でかいイチゴを頬張るとまるでリスのようにほっぺが膨らむ。 口元にコンデンスミルクがついていて、苦笑いを浮かべながら指摘した。 「ついてる。」 「こっち?」 唇を舐める姿が煽情的で、思わず視線を逸らす。 「ねえ、とれた?」 俺の腕を掴んで引き寄せると、わざわざ至近距離で見せつけてきた。 目の前で唇を舐める様を見せられ、視線を逸らしたくても逸らせない。 ―――マジで、天然こわすぎる……! 舌の艶めかしい動きに気を取られ、もはやコンデンスミルクなんてどうでもよくなってきた。 そう思っていたのは俺だけではなく、のぞを熱心に見つめる視線に気がついて、慌てて唇を親指で拭う。 「ほら、とれたから。」 「なんでキレてんの?」 「舐めるなって。行儀悪い。」 「ありがと。」 ―――唇、めっちゃ柔らかい!すっげえキスしたい……!! 思わず触れてしまった親指の感触が、あまりにもフワフワ過ぎて眩暈を覚える。 目を閉じて感触を思い出しながら余韻に浸っていると、俺の前に再びイチゴが押し付けられた。 「あーん。」 「これずっとやんの?」 「フォークひとつしかない。母さんそそっかしいから。」 ―――グッジョブ、恵さんっ!! のぞが口に入れたフォークを見つめながら、幸せを嚙みしめるようにイチゴを頬張る。 俺をやけに熱心に見つめてくるから、食べたいのかと思いタッパーをのぞに寄せる。 「のぞが食べたら?」 「昨日のお礼だし。」 「プリン買っただけ。」 「でも、嬉しかった。」 「怠いのは治ったの?」 「眠かっただけ。成長期だからかな?」 「のぞはどこも成長してないじゃん。」 「俺だって……。」 いつもはポンポン出てくる言葉が、やけに歯切れが悪い。 不思議に思いながらのぞを見つめると、焦ったように顔を隠された。 「俺だって、何?」 「なんでもない!」 「ほら、口開けろ。」 フォークが刺さったままのイチゴをのぞの前に差し出すと、のぞが不思議そうにイチゴを見つめる。 「咲が食べさせてくれんの?」 「楽でいいだろ?」 「確かに。」 そう言うと、躊躇うことなく大きな口を開ける。 柔らかそうな舌や濡れた口内に、心臓が大きく跳ねた。 この中に自分の性器を突っ込みたい願望にかられながら、大人しくイチゴを放り込む。 エロい妄想しかできない自分にうんざりしながら、のぞを見つめる。 「おいしいね。」 本当においしそうに顔を蕩けさせるから、自分が食べるよりも全然楽しい。 「ほら。」 「咲は食べないの?」 「イチゴそんなに好きじゃない。」 「え?ごめん!知らなかった!」 「嫌いではないよ。好き嫌いないから。のぞに食べさせてるほうが楽しい。」 「なにそれ?」 「ほら、口開けな?」 親鳥になった気分でのぞの唇に押し付けると、コンデンスミルクがべっとりと唇にくっつく。 顎まで滴るそれに目を奪われていると、真顔ののぞに睨まれた。 「下手くそ。」 「のぞの口が小さすぎるんだろ?」 ―――ヤバい。超、エロい……。すげえ舐めたい。しゃぶりたい。 下心満載で唇についたミルクを親指で拭っていると、のぞの舌が俺の指をペロッと舐める。 ぎょっとして見つめると、のぞはなんでもないように見つめ返す。 舌の感触が残っていて、思わず固まった。 ―――この親指は、俺が舐めても許されますか?合法ですか?? 「どしたの?」 「明日から外で食わない?」 四方八方から刺さるような視線を感じるのは、きっと気のせいなんかじゃない。 周りを煽ってどうするんだと反省しながらそう提案すると、のぞは首を傾げながらも頷いてくれた。 「別にいいけど。なんか、陽兄みたいなことするよな?」 「え、俺は陽海さんと同レべなの?」 家族扱いということは、全く意識されていないということで、なんだか悲しくなる。 気を許してくれているのも、のぞにとっては俺が家族みたいなものだから。 俺の前で平然と眠れるのだから、当前といえば当前。 分かってはいたけれども、のぞの口からはっきり言われると気分が沈む。 「なんで咲が保護者面してんの?」 「のぞが何もできない赤ちゃんだから。」 「俺だって色々出来るし。」 「例えば?」 「勉強。もうすぐ中間だろ?」 「食ってる時に嫌なこと思い出させんな?」 「苦手な国語、教えてやろうか?」 「全教科でお願いします。」 「小学校の復習だから、別に勉強する必要もないと思うけど。」 「それはのぞだけ。」 「咲はアホだもんな?」 「のぞから見たら、教師だってアホだろ?」 「さすがに大卒と比べたら、俺だってアホだわ。」 「てか制服でかすぎない?肩ガパガパじゃん?」 「だって肩にサイズを合わせると、丈が足りない。」 肩のサイズはだいぶズレているが、よく見ると足や腕の丈は少し長め程度に見える。 男の制服を着ると、のぞの華奢な身体にはあまりにも不格好。 ―――女子の制服なら、綺麗に着こなせるのに……。 楽しそうに談笑している女子の制服を見つめながら、その顔をのぞに置き換える。 びっくりするくらいに似合ってしまい、慌てて視線を逸らした。 「なに見てたの?」 「別に。」 「ふーん。」 不機嫌そうなのぞに睨まれて、頭の中の妄想も見られてしまったのではないかと錯覚して妙に焦る。 「のぞは既製品だと難しいんだね。」 「母さんの血が濃すぎるからじゃん?」 「人間らしさに欠けてる。」 「はあ?」 「顔小さいし手足長いし、マネキンよりスタイルいい。」 「それを咲が言う?咲だって制服苦しそう。」 「……デブだって?」 「いや、体脂肪率低いんだろ?どうやって筋肉つけてんの?」 「筋トレ。」 「触っていい?」 「え?」 「ちょっとだけ。」 そう言いながら身を乗り出され、いたずらっ子の顔をしたのぞにシャツの裾から手を差し込まれる。 「いやいやいやいや、無理だから!」 「なんで?腹触るくらいいいじゃん。へえ、マジで硬いんだね?なんかいっぱい詰まってる感じ。中身だけじゃなくて肌も硬くない?なに食べるとこんな鎧みたいになるの?」 そう言いながら冷たい指先で腹を撫でられ、思わず変な声が出る。 それを押さえようと手の甲で塞ぐと、のぞが面白そうに俺を見つめてくるから、かわいすぎて腹がたった。 「ちょ、ま?うあ……ま、無理!無理だって!」 「相変わらずくすぐり弱いんだ?」 「弱いのはのぞだろ?全身ザコじゃん。」 お返しとばかりに脇腹をくすぐると、腹を捩りながら手首を掴まれた。 うっすら涙を浮かべながら見つめられて、昨日の今日で色んなものが爆発しそうになる。 ―――違う違う違う。ただ、くすぐってるだけ。くすぐってるだけ……。エロじゃない。これはエロじゃない。 「あははっはは。も、や……め!ダメだって……そこヤだ。」 弱々しく手首を掴まれたが、それを無視して首筋を撫でると、身体がビクンと大きく跳ねる。 その様子にドクンと背筋に熱いものが流れ、欲望のままシャツの中に手を突っ込んだ。 「今野、ストップ!ストップ!!」 潜り込ませた手首を田中にがっしり掴まれて、ようやく自分のしようとしたことに気がついた。 のぞは熱を帯びた表情のまま微笑んでいて、慌ててシャツの中から手を引っ込める。 「……ごめん。」 「何が?」 「なんでもない。」 何をされようとしていたのかも分かっていないのか、暢気な笑顔を浮かべている。 俺もかなり危ないが、のぞは違う意味で危なすぎる。 ―――頼むから、もっと抵抗してくれ……!! AV見るくらいだから少しは大人になったのかと思ったけれど、やっぱりのぞはのぞのまま。 穢れを知らない大きな瞳でじっと見つめられて、再び血液が下半身に流れるのを感じる。 それを阻止しようと額を机に思い切りぶつけると、自制心をかろうじて保つことができた。 「ちょ、何してんの?大丈夫?怖いんだけど……。」 「いや、怖いのはのぞ。」 自分がどう見えているかなんて全く気がつかない無垢な悪魔は、平気な顔で俺の膝の上に舞い降りてきた。 「いや、何してんの?」 「咲も触っていいよ。」 「はあ?」 「触りたかったんだろ?」 「……のぞ、いい加減にしろって。」 「好きなだけ触って。」 そう言いながら微笑まれて、理性と自制心が秒で吹っ飛びそうになる。 マジで好きなだけ触っていいんすか……? 普通にパンツの中まで弄るんですけどマジでいいんすか?分かって言ってんの? 襲われそうになっていたことなど露ほどにも気がつかず、俺の手首を握って自分のシャツの中に潜り込ませる。 煽っている自覚なんてまるでなく、下心しかない俺に柔らかな腹を撫でさせた。 ―――あー、拷問……。 「プニプニ。水じゃん。」 「筋肉です。」 「んなもん、のぞにないだろ?」 「ほら、筋ある。」 「これは肋骨。もっと食えよ。細すぎる。折れそうじゃん。」 「イチゴならいくらでも食べられる。」 「いい加減、果物を主食にすんな。幼稚園児か?」 「米嫌いだもん。」 「のぞは好き嫌いが多すぎる。ピーマンと椎茸は食べれるようになったの?」 「アレは食べ物だと認めてない。」 「出されたものはなんでも有難く頂くんだよ。」 「残念でしたー。うちではピーマンも椎茸もでてきませーん。」 「恵さんはのぞを甘やかしすぎ。」 「昨日は自立しなくていいって言ってた。」 「恵さんって、たまに笑顔で怖いこと言うよな?」 「あの人の何が怖いかって、それが本気なところだと思わない?」 「わかる。」 滑らかな薄い腹を撫でているうちに、間近にのぞのうなじが見えた。 髪を切ったばかりのそこは艶めかしくて、思わず顔を埋めたくなる。 髪の毛からシャンプーの匂いがするし、首筋からのぞの匂いにも誘われ、尋常ではない汗が背中を流れる。 ―――のぞに触れていると、マジで自分が何するかわからない……。 俺の暴走スイッチは、きっと無数にある。 ふとした瞬間に押されてしまい、気がついてからでは手遅れになる。 離れる以外の選択肢はないのに離れたくないと思ってしまう俺は、のぞに負けず劣らずわがままだ。 「のぞ、自販行こ。」 「あ、財布忘れた。」 「奢る。」 「いいの?明日は俺が奢るから。」 「いいよ。イチゴもらったし。」 「ほとんど俺が食ったんだけど?」 「十分もらった。」 のぞの舌が触れた親指をぺろっと舐めてから、財布を掴んだ。
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