蛇に睨まれたオオカミ

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咲 「さっきの体育、のぞみんTシャツ着てなかったって。」 ―――は? 次の授業は理科の実験。 そろそろ理科室に移動しようかと腰をあげると、小走りで教室に戻ってきた木村が息を弾ませながら爆弾を投下した。 思わず顔を上げると、木村と視線ががっちり噛み合ってしまう。 俺を見つめてあからさまに狼狽えながらも、小声でぼそぼそと話し続ける。 「乳首透けてたらしくて、エロいってD組が騒いでた。」 「マジか。見に行く?」 「え、男の乳首でもエロいの?」 「だって、のぞみんだよ?」 浮足立つ野郎共の肩を掴むと、思い切り顔を引き攣らせた。 「見に行ったら全員殺すから。」 それだけ伝えると、部活バッグからTシャツを掴み、予鈴が響くのを無視してD組に駆け足で向かった。 教室に顔を出すと、いつものように田中に頭を撫でられているのぞが目に入る。 ―――クソが!!!触ってんじゃねえ!!! 田中を睨みながらのぞの腕を掴むと、そのまま無言で廊下に引きずり出す。 「のぞ、Tシャツは?」 「え?暑いから脱いだ。予鈴鳴ったけど大丈夫?次実験って言ってなかった?」 なんでもない顔でそう言うのぞの胸元を見ると、微かに突起が透けて見える。 顔を背けながらTシャツを胸の前に押すと、のぞは意味が分かっていないのか俺をぼーっと見つめている。 「なに急に?」 「絶対に脱ぐな。着てろ。」 「だって、暑いんだもん。」 「だってじゃない。透けるだろうが!」 「いいよ。誰もそんなとこ見てないから。」 ―――見られてるって!すげえ見られてるから!!いい加減に学べ!!! クラスがこんなにも離れているのに、のぞの情報だけ筒抜けなことをマジで理解してほしい。 眉を潜めながらのぞを見ると、俺のTシャツを大人しく受け取る。 そのまま廊下でシャツのボタンを外そうとするから、腕を引っ張ってトイレに連行した。 「咲のTシャツおっきいね?」 「のぞが小さいだけじゃん。着れたの?」 「見て?ワンピースみたいじゃね?」 そう言って個室から顔を出すと、膝丈の俺のTシャツを着たのぞがくるりと回る。 スカートのように裾が翻り太腿が露わになるから、見ていられずに顔を背けた。 「……見せなくていいから。なんでわざわざズボンまで脱いでんだよ?早く着替えろって!」 「そんなことよりさ、今日の部活でユニ……。」 「そんなことじゃない!ちゃんと着てろよ?てか着替えとか大丈夫だよな?」 「何が?」 俺をきょとんとした表情で見上げてくるから、マジで心配すぎてイライラする。 小学校でも中学でも男に散々追いかけまわされているくせに、なんで危機感が育たないのか謎過ぎる。 AVを見ているからセックスにも理解があるはずなのに、なんで自分が対象になっていることに気がつかないのか理解ができない。 「いや、ちゃんとコソコソ着替えてる?」 「コソコソって何?」 「あー……ええと、大事なとこ見えないようにしてる?」 「え、普通にパンツ穿いてるけど……まさか咲は脱いでんの?大丈夫?」 「……ズボン脱いだら速攻短パン履けよ。」 「はいはい。」 「Tシャツ一枚でウロウロすんなよ。」 「咲って陽兄みたいなこと言うのな?」 「陽海さんにも言われてんのかよ。」 「もう中学生なのに、いつまで同じこと言われなくしちゃいけないの?」 「のぞが全く理解してないから。」 「別に見られて困るもんじゃないじゃん?咲なんて女子がいても体育館で平気で着替えたりしてるのに……。」 「俺はいいんだよ。」 「じゃあ俺もいいじゃん?」 「のぞは絶対にダメに決まってんだろ?」 「あのさ、いつまで女子扱いすんの?」 「一生。」 俺がそう断言すると、のぞが思い切り顔を顰める。 「ここでパンツも脱いでやろうか?」 「大事なとこは覚えてるよな?」 小学生を相手にするような質問に、のぞが鼻に皺をつくる。 「はいはーい。覚えてまーす。これが大事ー。」 そう言いながら俺の背中に腕を回して、思い切り抱き付かれた。 のぞの股間を太腿に感じ、全身の肌がビリビリする。 俺を見上げて満足そうに微笑むのぞを見下ろしながら、興奮しすぎて息が吸えない。 「違う!!俺は大事じゃない!!肌着で隠れてるところはパーソナルスペース。見られるのも触られるのもダメなんだからな?」 「……うっせえな。」 「天然のくせに反抗すんな!のぞに反抗期なんか100年早いから!!」 「なんだよ?いつまでもガキ扱いばっかりして!!俺だってちゃんと大人になってる!!てゆーか咲よりも誕生日早いし!」 「大人になってない!のぞは自分のこと何にも分かってない!!」 「大人だよ!ちゃんと精通きたもん!」 大声で高らかにそう宣言するのぞを見て、無意識に股間に視線が向く。 あの柔らかい性器が勃起する瞬間を想像して、顔が熱い。 「え……き、きたの?やっぱり?」 「やっぱりって何?あ!咲はまだ?俺の方がお兄ちゃん?」 「小5できた。」 「……なんで今まで黙ってたの?何年前よ?」 「言う必要ないから。」 「なんで?田中は小6だってちゃんと教えてくれたよ?」 「田中の性事情なんか微塵も興味ねえって。」 「咲は俺に何も話してくれないね。」 「話してるだろ?登下校も同じだし、ラインも電話も毎日してるじゃん?」 「そうじゃなくて……精通きたとか、大事な話は俺にしてくれないじゃん。」 「別に大した話じゃないじゃん?のぞに関係ないし。」 俺がそう言うと、のぞが腕を組みながらにじり寄ってきた。 「あー、そうですね?俺には微塵も関係ないですもんね?咲が誰とセックスしようが、俺には全くの無関係だもんな?」 「なんでキレてんの?」 「キレてない!!」 「てかセックスとか口に出すなよ。」 「なんで?」 「のぞはかわいいんだから、そーゆー言葉を使うな。」 「だから女子じゃない!なんでいつも俺のこと女子扱いすんの?何回触ったら男だって理解できんの?生で掴ませるぞ?」 「見た目と中身が伴ってねえから心配してんだろうが!クソガキ!!ガキなんだから黙って言うこと聞いてろ!!」 「精通きたからガキじゃない!大人だもん!!セックスできるもん!!」 「そこで判断してること自体がガキだろーが!!」 「咲のバーカ!!!」 「いつまでも小学生みたいな煽りやめろ!!太腿チラチラさせてねえで、さっさとズボンを穿け!!なんでTシャツ着るだけでズボンまで脱ぐんだよ?誰か来たらどうすんだ?」 「別に見られても困らない!!」 「はあ?どの口が大人だって言ってんの?」 「ほら、授業始まってるから。イチャイチャしてないで教室に戻りなさい。」 俺が怒鳴ったところで、おがっちが気まずそうにトイレに顔を出した。 「おがっち聞いてよ。咲が精通したことずっと俺に内緒にしてたの。酷くない?」 「胡蝶には言えねえだろ?」 「なんで?友達なら話してくれてもいいじゃん?」 「胡蝶もきたのか?」 「え?うん。夢精したからビビった。おがっちもそうだった?」 「いや、俺は普通に……。」 「普通?普通って何?夢精はダメなの?」 ―――む、夢精したのか……。 おがっちと視線を合わせ、互いの言いたいことが全て表情だけで理解できた。 のぞが自ら弄っている姿は絶対に浮かばないし、小学校の時もちんこが痛いと泣きながら見せてくるくらいだから、知識も恥じらう感情すらほとんど育っていないはず。 ふわふわの柔らかそうな髪も、すべすべの肌も、きれいな翡翠色の瞳も、すべてが魅力的すぎるのに…… のぞは自分のことを余りにも分かっていない。 のぞを怖がらせないようにオブラートに包み過ぎているから、純粋無垢な生き物が爆誕してしまった。 そんなのぞの身体の成長が、心の成長に全く追いついてないことが怖すぎる。 「……ええと、やり方は大丈夫か?」 「やり方?」 「3日くらいで溜まるから……あー、わかんなかったら今野に聞きなさい。」 のぞ相手に性教育をするのが色んな意味で面倒くさくなったのか、おがっちは俺を見てさっさと匙を投げた。 「咲に聞くの?」 「おい、あんた。それでも教師か?」 「俺が教えていいのか?」 ―――いや、それは絶対に嫌だけど……。 「……のぞ、ひとりでできるよな?」 何を聞かれているのか分かっていないだろうと思いながらのぞを見ると、口端がわずかに上がっている。 尿ではなく精液だと判断できる最低限の知識はあるみたいだし、AVも見ているくらいだからひとりでしていると考えて間違いない。 ―――のぞもやっぱり、ひとりでシてんのか……。 その姿を想像しそうになり、あまりにも煽情的なイメージに脳内がピンク一色に染まる。 のぞの心も少しは大人になってるのかと思うだけで、心臓が壊れそうなほどに煩い。 隣にいるのぞに聞かれないように胸を抑えると、のぞが俺の顔をまじまじと見つめてくる。 「咲先生が教えてくれんの?」 「知ってる顔してるから、教える必要ねえな。」 「知らない。だって、赤ちゃんだもん。」 「嘘つけ。精通きたから大人だろうが?」 「咲がガキだって言った。」 「……ガキじゃない。」 「そうだね。俺たちセックスできる大人だもんね?」 艶やかな微笑みを浮かべながら、流し目を送られた。 ―――一体どこで、そんな誘い方を覚えてきたんだ……? 「のぞ、ちょっと黙って。キレそう。」 「顔こわ。そんな怒らなくてもいいじゃん?」 これ以上のぞの言葉や表情を見ていると、廊下で襲いかねない。 いつ押されてもおかしくない勃起スイッチを抱えながら、前かがみで理科室に向かった。
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