蛇に睨まれたオオカミ

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咲 「今野、私服どうした?」 同部屋の3年に声をかけられ振り返ると、俺の服を見て固まっている。 のぞがせっかく選んでくれた服を着ているというのに、会う人会う人に同じ顔をされすぎて、意味が分からない。 ―――俺には似合わないってこと……? 「何が?」 「いや、それどこに売ってんの?」 「のぞが買って来てくれた。」 「え?ちょっと待って。今野の服ってのぞみんが選んでんの?」 「いや、今回だけ。絶対にこれ着ろって。」 「……のぞみんの独占欲って、すげえ強烈だな。」 「独占欲?」 「いや、すげえ怖い。羨ましいけど怖い。」 「何が?」 話が噛み合わなすぎる男たちを追い払いながら、LINEでのぞに電話をしていいかの確認をすると、すぐにオッケーと可愛い犬のスタンプが届いた。 「あれ?誰かに電話すんの?」 「お前に関係ない。」 「いや、俺は一応先輩な?彼女でもいんの?」 「うるさい。」 「うっわ、安定ののぞみんじゃん。合宿にまで来て電話すんの?」 「あっち行けって!もしもし?」 「咲?合宿お疲れさま。」 手で追い払いながら背中を向けると、優しく労わってくれるのぞの声が耳に届く。 透き通るような柔らかい声色に、思わず顔がだらけそうになる。 一日走りっぱなしで疲れ果てた身体に、のぞの優しい声が細胞の奥まで沁みていく。 「ごめん。すげえうるさくて……。」 「なんか賑やかだね。何人部屋なの?」 「10人で雑魚寝。」 「へえ?楽しそう!」 「うるさいだけ。」 「なあ、テレビ電話にしろよ。俺も喋りたい!」 「なんでお前が入ってくんの?すげえ邪魔。」 「マジで先輩に対する敬意がねえな?」 同部屋の連中に邪魔されながらスマホを抱え込むと、のぞが声を張り上げる。 「咲~?聞こえてる?忙しいならかけ直そうか~?」 「のぞ、ごめん。テレビ電話大丈夫?」 「大丈夫だよ。」 その声にすぐに画面が切り替わり、のぞの顔が映し出された。 今朝、半分眠ったままののぞと家の前で別れてから、まだ半日しか経っていないのに、既に会いたくて堪らなかった。 画面越しでも美しさは健在で、ドアップにも余裕で対応できる顔面の強さに胸が痺れる。 至近距離で髪をかきあげながらにっこり微笑まれて、耳の辺りがやたら熱い。 いつもよりも傍で見ているような気がして、近すぎる距離にドキドキする。 自分の顔が小さく映し出されているのが気がかりで、のぞの顔を見たいのは山々だが、俺のキショい顔は見せたくない。 思ったよりもドアップになってしまったと少し離れると、のぞも同じことを思ったのか少し距離をとる。 すると、華奢な首筋から肩のラインが露わになったのに、そこには白い肌しか映らない。 「ふ、服は?」 「あー、風呂上り。パンツだけ。」 「着ろって!!!」 「だって、暑いんだもん。家でくらいいいじゃん。」 そう言いながらタオルで髪を拭く動作に肩が上がり、胸が見えそうでヒヤヒヤする。 見たい気持ちはもちろんあるけれど、ここでは誰かに見られそうで怖すぎる。 「うっわ、ラッキースケベじゃん!!」 「返せって!!」 案の定覗き見していた先輩に声をかけられ、スマホを取り上げられる。 それが代わる代わる男の手を移動していくから、怖くて堪らない。 「あれ、先輩?」 「見るなって!!!」 「のぞみ~ん、乳首見せて?」 「はは、お金取りますよ。」 スマホを取り戻してトイレに立て籠ると、ブーイングと一緒にドアを忙しなく叩かれる。 「のぞ、ごめん!」 「なにが?」 「は、裸見ちゃったから。」 「裸?ほとんど映ってないし大丈夫だよ。女子じゃないんだから。練習どう?きつい?」 「まあ、明日の午後から他校と試合だから気合は入ってる。のぞは何してたの?」 「ん~?普通にダラダラしてる。外暑いから。」 「熱中症と夏バテには気を付けて。アイスばっかじゃなくて、ちゃんと食べるんだよ?」 「はいはい。咲はバテてない?体育館ヤバいんだろ?」 「大丈夫。学校よりだいぶ涼しいから。」 「合宿って、やっぱ楽しそうだね。」 「うるさいだけ。さっき布団敷きながら枕投げしてたし……。」 「咲は混ざらないの?」 「のぞと話してる方がいい。」 「そう。」 蕩けるような笑顔でじっと見つめられて、のぞといるとクーラーが効いた部屋でも暑く感じた。 電話なのに、喋らなくても幸せ。 ―――このままずっと、見つめ合っていたい。 かわいい顔に見惚れていると、のぞが困ったように視線を外すから、慌てて話題を探す。 無言でいたら、すぐに切られてしまう気がして……。 「あー、明日はどっか行くの?」 「まだ考えてな……あー、アイス溶けてる!!ちょっと待ってて!」 そう言いながら慌てた様子でのぞから天井へと視点が変わり、再びアイスを舐めながらのぞが登場する。 棒アイスを必死にしゃぶりつくのぞを見つめながら、そっと録画ボタンを押した。 実際に会えないのは寂しいけれど、テレビ電話なら後の楽しみができる。 ぺろぺろとかわいい舌を出すのぞを邪な視点で見つめながら、エロ目と息遣いがバレないように俯きながら顔を隠す。 「人の不幸を笑ってんのか?」 「……ちが。」 「え、なんか怒ってる?目が怖いんですけど?」 「いや、別に……。」 「電話ありがとね。元気出た。」 「うん。明日もするから。」 「おやすみ、咲。」 「のぞ、おやすみ。」 あっさりと電話を切られてしまったが、昂った下半身はなかなか冷めない。 仕方なく先ほどののぞのアイス動画を再生しながら、パンツから竿だけ取り出す。 自分の竿を舐めている妄想を頭の中で展開しながら…… 舐めて欲しいというよりも、どちかと言えばのぞのを舐めたい欲望のほうが強い。 エロいはエロいけど、のぞのきれいな顔を汚したくない。 ―――舌、めっちゃかわいい。舐めたい。しゃぶりたい……。 寝ぼけたままキスされたことを思い出し、唇の感触を必死に思いだす。 自分の手の甲に唇を押し当て、画面をドアップにしてのぞの舌の動きに合わせて自分の舌を動かす。 さすがに妄想だけでカバーできない感触の違いに萎えてしまい、いつものようにのぞの顔を見つめながら右手を動かした。
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