蛇に睨まれたオオカミ

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咲の部屋にいるのが気まずくて、久しぶりに陸部に顔を出した。 サッカー部が校庭の大部分を占めているから、俺たちが使えるのは端にある空スペースのみ。 だからこそ日陰が確保できるから、別に困ることはない。 こんがりと焼けた肌の男たちが、ボールを蹴り飛ばしながら何かを叫んでいる。 それをぼんやりと見つめながら、木陰で水筒を傾ける。 大して動いてもいないのに、休んでばかりだから空になるのが早い。 夏休みが、もうすぐ終わろうとしている。 俺たちの関係は前進どころか、むしろ後退している気がする。 背中を地面にくっつけて、高い空を見上げた。 浴衣じゃなくて洋服だったら、触りっこくらいまでイけたんじゃないかと後悔の嵐。 着崩れるなんて考えずに、止めなければよかった。 でも、最後までシちゃったら咲に後悔させていたのかと思うと、これが最善だとも思えなくもない。 まだ間に合う。 引き返せる。 友達に戻れる。 本当は友達なんて関係はずっと窮屈で、抜け出したいと思っていたのに…… 咲が友達を続けたいなら、このままでいい。 変にこじれて疎遠になるよりは、ずっといい。 尻の辺りがムズムズして、苛立ちながら起き上がる。 最近ずっと弄っているせいで、座っているだけでぎこちない。 挿れるとみんな気持ちいいって言うのに、俺にはウケる才能がなさすぎる。 ―――咲と最後までシたくて弄ってたのに、意味なかったな……。 自販機に向かおうとしたところで、校門で見覚えのある男がいた。 にっこりと笑みを浮かべながら、軽やかに手を振っている。 「久しぶり。今日も暑いのにサボらなかったの?」 「あれ?お兄さん……?」 こんなところで会えるとは思わず、校門をすり抜ける。 「どうしたんすか?」 「のぞみちゃんにお届け物でーす。」 「あ……どうも。」 そう言いながら差し出されたものを見て、思わず声をあげる。 初めてひとりでとれた戦利品だったのに、頭も心もいっぱいいっぱいで、取りに行く元気はなかった。 それをありがたく受け取ると、頭の上に大きな手のひらが乗せられる。 火照った肌に冷たい指先が心地よくて、目を細めながらお兄さんを見上げる。 「咲ちゃんには渡せた?」 「……咲ちゃん?」 咲の名前を知っていることに違和感を覚えながら見つめると、お兄さんが笑みを濃くする。 「スマホの通知見て、慌てて走ってったじゃん?」 「あー……。」 「好きなんだろ?」 「え?」 「彼女いたんだ。」 「まあ……。」 咲の名前を見て、男だと思うほうが少ない。 勘違いしているなら、それでいい。 この男にバレたって、どうでもいい。 ―――どうせ、もう会わないんだから……。 男の手を振りほどくと、今度は腕を掴まれる。 「何?」 「咲ちゃんって男なんだろ?」 「……え?」 「この前、咲ちゃんとお話したから。」 にこやかに話す男を睨むと、指をするっと撫でられた。 「なんで?」 「気になる?」 「……なんで咲とあんたが繋がってんの?」 「さて、どうしてでしょう?」 ―――クソ面倒くせえ……!! 面倒くさいけれど、咲が絡んでいるとなると放ってはおけない。 俺が咲が好きなことはこの人にもうバレてるし、センシティブな今、俺の好意が伝わるのは怠すぎる。 「部活、何時に終わんの?」 「なんで?」 「うち来てくれたら教えてあげる。」 ―――マジで、うぜえ!!! 「自主練だから、もう帰れる。」 「じゃあ、行こうか?」 男に手を掴まれ、大きなため息とともに憂鬱な一歩を踏み出した。
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