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「おやロバート君、久しぶりだねえ」  出迎えてくれたのは、彼の父親だった。 「いやあ、葬式以来だね、座って座って」  応接に通されると、妻が会ったらしいメイドがお茶を出してくれる。 「このまま休みが続くと、さすがに補充要員の募集をかけなくてはならない、と上司が」 「うん、まあそれはそうだねえ。だがなあ……」  中規模くらいの実業家であるスティーブンス氏は、何やら言葉を濁す。 「そう言えばハロルドの奥さんは? お出かけですか?」 「む…… 実は今、実家に帰っているんだ」 「え」 「どうにももう耐えきれない、とさめざめと理由を話してくれたよ」 「確かに今の状態は良くないとは思いますが…… でも、ハロルドは彼女に一目惚れして、それで」 「なあロバート君、君はあれが彼女の何処が好きになったのか、知っているかい?」  スティーブンス氏はマントルピースの上の、奥の方に置かれている写真立ての一つを手に取った。 「え」  ガラスが割れている。  いや、写真立て自体が壊れている。 「先日、あれの前で彼女が床に投げつけたんだ。それであれが彼女の頬を張ってなあ……」 「ハロルドが?」  そして俺はその写真立てをよく見る。  中に入っていたのは。 「奥方…… ではないですね」 「亡くなった妻の、若い頃の写真だ」  俺は本気で驚いた。  マントルピースに大量に置かれている写真の中でも後の方にあったので、いくら毎週の様に来ていた時期でも気付かなかった。 「似ている、とは聞いてましたけど」 「ああ。正直あれが連れてきた時私は息が止まるかと思ったよ。結婚は許したが、……少し不安はあったんだ。この写真は特にハロルドの好きなものでな……」  ふう、と肩を落としてスティーブンス氏はため息をつく。 「あの、ハロルドに会ってもいいですか」 「頼むよ。私の言葉は聞かなくても、友人の君の言葉なら届くかもしれない」  そして俺は二階の彼の部屋へと通された。  ノックをすると、誰、と声がしたので「ロバートだ」と短く答えた。  少し間を置いて、どうぞ、と声がした。  そして扉を開けると。  部屋は暗かった。
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