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8
「おやロバート君、久しぶりだねえ」
出迎えてくれたのは、彼の父親だった。
「いやあ、葬式以来だね、座って座って」
応接に通されると、妻が会ったらしいメイドがお茶を出してくれる。
「このまま休みが続くと、さすがに補充要員の募集をかけなくてはならない、と上司が」
「うん、まあそれはそうだねえ。だがなあ……」
中規模くらいの実業家であるスティーブンス氏は、何やら言葉を濁す。
「そう言えばハロルドの奥さんは? お出かけですか?」
「む…… 実は今、実家に帰っているんだ」
「え」
「どうにももう耐えきれない、とさめざめと理由を話してくれたよ」
「確かに今の状態は良くないとは思いますが…… でも、ハロルドは彼女に一目惚れして、それで」
「なあロバート君、君はあれが彼女の何処が好きになったのか、知っているかい?」
スティーブンス氏はマントルピースの上の、奥の方に置かれている写真立ての一つを手に取った。
「え」
ガラスが割れている。
いや、写真立て自体が壊れている。
「先日、あれの前で彼女が床に投げつけたんだ。それであれが彼女の頬を張ってなあ……」
「ハロルドが?」
そして俺はその写真立てをよく見る。
中に入っていたのは。
「奥方…… ではないですね」
「亡くなった妻の、若い頃の写真だ」
俺は本気で驚いた。
マントルピースに大量に置かれている写真の中でも後の方にあったので、いくら毎週の様に来ていた時期でも気付かなかった。
「似ている、とは聞いてましたけど」
「ああ。正直あれが連れてきた時私は息が止まるかと思ったよ。結婚は許したが、……少し不安はあったんだ。この写真は特にハロルドの好きなものでな……」
ふう、と肩を落としてスティーブンス氏はため息をつく。
「あの、ハロルドに会ってもいいですか」
「頼むよ。私の言葉は聞かなくても、友人の君の言葉なら届くかもしれない」
そして俺は二階の彼の部屋へと通された。
ノックをすると、誰、と声がしたので「ロバートだ」と短く答えた。
少し間を置いて、どうぞ、と声がした。
そして扉を開けると。
部屋は暗かった。
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