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嫌いじゃないけど
地元のカラオケボックスのトイレはちょっと奥まっていて、出入り口付近が他の部屋からは直接見えない造りになっている。
お客が少ない時間帯は特に誰にも見られることはない。
高木マモルの目の前には、壁際に押しやられた平井ユナがいた。
「どうすんの?あれ。内藤のこと嫌いなの?」
「どうすんのって、告られてもないのに。こっちが聞きたいよ」
「だって、盛り上がっちゃってんじゃん」
部屋の中はユナの苦手な空気になっていた。
内藤の好きな女がユナだとわかってから、クラスの友達が二人をくっつけようと盛り上がってしまった。
「嫌いじゃないなら、いいんじゃね?」
「は?よくないよ。嫌なの、大勢の前で言うとか、外で大きい声で言うとか、断る方が悪者になるじゃん。可哀想とか言われんだよ。こっちの気持ち考えてないじゃん。そういうことやるやつなんだなって思ったら・・・もう無理だわ、内藤も、皆も」
「まあ、そうだね。それはお前が正しい。じゃあ、今んとこ誰もいないのね?そういうのは」
高木は壁に手をついて、顔をユナに少しだけ近づいて聞いた。
ユナは目をそらして俯いた。
「それ、高木に関係ある?」
「ある」
高木はユナの顎を右手で戻すと唇をつけた。驚いてつい開いてしまった唇の隙間をついて、高木がすかさず入ってくる。
手首を押さえられ、口の中は存分に混ぜられる。
高木はユナが抵抗をやめるまでそれを続けた。
「俺も、ああいうのは苦手なんだ。逃げ道ないと困るもんね」
座りこんだユナを置いて高木は立ち去った。
しばらくして内藤がやって来た。
「平井、ごめん。変な感じになっちゃって。でも、一応、もし俺のこと嫌いじゃなければ、ちょっと考えて欲しいっていうか・・・」
「内藤、ごめん。嫌いじゃないけど、そういうのじゃないや」
「そっか。わかった」
ユナは部屋に戻るとカバンを取って、用事があると告げて先に店を出た。
高木以外の全員が呆気にとられて、ユナを見送り、男子はその場にいない内藤を探しに行った。
その後の室内はフラレた内藤の慰め会になっていて、そこにはもう高木の姿はなかった。
End
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