はじめて

1/1
前へ
/14ページ
次へ

はじめて

「それ、嫌いなんだよね」 ゴク。 口に入れた酒はそのままハルトの喉に落ちていった。 「ごめん、あんたが嫌とかじゃなくて、そうやって飲まされるのが嫌いなだけ」 「なんで」 「初めてそれされたとき、めっちゃ不味かったから」 「不味い?」 「そう、温くて。冷たい飲み物が台無し」 「温いの?」 「温いよ。口ん中であったまるじゃん」 「確かに。俺、考えたことなかった」 「まあ、好きな女もいると思うけどね。私は嫌い」 「そっか、知らなかった。ごめんね」 ハルトは少しションボリして、グラスの中の琥珀色を眺めた。 「そんなに不味いの?」 「ふふふ、不味いよ」 女が琥珀色を一口入れると、ハルトは唇を開いて受け取った。 「ん。ん?温くないよ」 「ふふふ、それはね」 女はもう一度、ハルトを開かせる。 冷たい塊が一つ転がった。 「ロック?」 「そう。こうしてくれたら良かったのにって」 二人は氷が溶けるまでそれを繰り返す。 「するのが嫌いなわけじゃないんだね」 「そうね。たぶん好き」 「ふうん。俺いろんな女としてたけど、嫌って言われたことなかったな」 「そう。それは、嫌って言えなかったか、すごく良かったか、どっちかだね」 「君は初めてされたとき、嫌って言えなかったの?」 「うん。だって、キスしたのも、その時が初めてだったから、何が正解かわからなかったの」 ハルトは女の顔を見て、目をパチパチとしていた。 「はじめからハードモードだね」 「でしょ?」 ハルトは女がしたように、氷と一緒にグラスの中身を口に入れた。唇を開き、女はそれを受け取ると、また二人は繰り返した。 End
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加