ある朝突然に

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 最初に電話口に出たのは義母だったものの、私が秀太郎の死を告げると動揺した様子で義父に代わった。 「大谷家と池山家とでは家の格が違うから合同葬儀というわけにはいかない。秀太郎の葬儀は私が喪主となって執り行う」  義父がそう申し出てくれて少し肩の荷が下りた。「涼香さんには任せられないからな」という一言は余計だったけど。  秀太郎の会社のことも義父が秀太郎の秘書に連絡して上手くやっておくと言ってくれたので、すべて一任することにして電話を切った。  元々、秀太郎は父親から事業を受け継いだから、私のような一介の小学校教諭がしゃしゃり出るより元CEOに全部お願いした方がいい。  ああ、そうだ。学校にも連絡しておかないと。子どもたちは夏休み中でも、教員は研修や当番などで出勤する日が結構ある。  「よろしくお願いします」と頭を下げて学年主任との電話を切ったら、次は葬儀屋だ。  母の葬儀のときに会員になった大磯の葬祭センターに電話すると、明日の午前中に打ち合わせしてくれるという。 「そうだ。ホテルを予約しないと」  スマホでネット予約しようと大磯近辺のホテルをいくつか探したけど、夏休み中とあってどこも満室だった。 「仕方ない。研究所に泊まるか」  ベッドも布団もないけど、ソファーはあったはず。  それにあそこに行けば、父が鎌倉のコインロッカーに入れていた物が何なのかがわかるかもしれない。  私は意を決して、町内にある父の研究所へと向かった。  ”研究所”と呼んではいたものの、そこは父が調べたオーパーツ関連の資料や収集した物を置いてあるだけの普通の家だ。  世界各地から集めた物たちは結局オーパーツではないとわかったものの、父は捨てられずに全部保管していた。 「オーパーツで鎌倉と言ったら、たぶん渡辺さんよね」  私は運転しながら独り言を呟いて頷いた。  先月、古希のお祝いを贈った渡辺というおじいさんは父が親しくしていた古文書の研究者で、鎌倉駅の近くに住んでいる。  渡辺さんはメールやメッセージアプリを使えないので、父とは電話やFAXで情報交換をしていた。  父が鎌倉駅のコインロッカーに何かを入れたのだとしたら、それはたぶん渡辺さんと会って手渡しされた資料だろう。  あの男性警官の様子ではコインロッカーに何が入っていたかを私には教えてくれなさそうだから、私は直接渡辺さんに訊いてみようと考えた。  研究所に行けば、渡辺さんの電話番号がわかるはずだ。
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