ある朝突然に

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 秀太郎が発見したオーパーツは、源頼朝が栄華を誇った頃に描かれた掛け軸に宇宙船らしきものが描かれたものだという。  この手のオーパーツは実は結構あって、広く知られているのは歌川国芳の浮世絵だ。  江戸時代に描かれた【東都三ッ股之図】の背景にスカイツリーのようなタワーが描かれているということで話題になったものの、実際は高さ15メートルほどの(やぐら)でオーパーツではないという説が有力だ。  そして、秀太郎が発見した掛け軸も、渡辺さんによればオーパーツではなく誰かが捏造したものだった。  もしも秀太郎が生きていて、帯に【オーパーツ発見!】とデカデカと書かれた著書が出版されていたら、とんだ恥をかくところだった。  父は大学で教鞭をとっていたから、考古学の著書を何冊も出していてあの出版社にも知り合いがいる。その関係で秀太郎の見つけた掛け軸のことを知り、疑問に思って渡辺さんに問い合わせたのかもしれない。  おそらく父は今日この資料を秀太郎に見せて、著書の出版を見合わせるように説得するつもりだったのだろう。  あれ? でも、それなら父は自宅にこの資料を置いていたはずだ。  わざわざ秀太郎と私を家に呼んでおいて、「詳しくは鎌倉駅のコインロッカーの中に入っている資料を読め」などと言うわけがない。  大体、私たち夫婦を呼ぶのに、父が別々に声を掛けたというのもおかしい。  父の家の前に秀太郎の車が停まっていたから、私はてっきり彼も父に呼ばれたのだと思い込んだ。  だけど、父が呼んでいなかったとしたら?  昨日メッセージで私が父に呼ばれたことは、秀太郎には話していない。朝起きたら話そうと思っていたのに、もう秀太郎は出かけた後だったから。  ラジオを聴いた父に、秀太郎はオーパーツを発見したことを直接報告しようとしたのだろうか。  父や秀太郎が何を考えていたのかは、今となっては推測しか出来ない。  はっきりしているのはオーパーツが捏造されたものだったということ。そうとは知らずに秀太郎は大金を払って手に入れたはずだ。  捏造した者が金を取り返されるのを恐れて秀太郎を殺したのだろうか。父はその巻き添えになったのだとしたら悲しすぎる。  問題の掛け軸は秀太郎がどこかに保管しているのだろう。たぶん自宅の金庫かどこかの銀行の貸金庫に。  自宅の金庫だとしても私は暗証番号を知らないけど。  もしも捏造されたオーパーツだとは知らずに掛け軸を狙った強盗犯だとしたら、我が家ではなく父の家を襲ったのは変だ。  それとも父を人質にして、秀太郎から掛け軸の在り処を聞き出そうとした?
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