ある朝突然に

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 やっぱり怪しいのは秀太郎を騙して偽のオーパーツを売りつけた誰か。  でも、秀太郎がどこの誰とどんな交渉をして捏造品を手に入れたのかは、私にはわからない。  オーパーツ研究は秀太郎の趣味だから、彼の秘書も関知していないだろう。  プライベートなスケジュールについては秀太郎のスマホを見ればわかるはずだけど、彼が身に着けていた物は警察が保管しているだろうから私には手も足も出ない。  そもそも犯人捜しは警察の仕事で、妊婦の私が出しゃばるべきじゃない。下手したら、私までが犯人に命を狙われてベビちゃんの命も危険に晒すことになる。  気持ちを落ち着かせるためにフーッと息を吐き出してから、資料をクリアファイルに入れた。  父が資料をFAXで受け取らずに渡辺さんに会いにわざわざ鎌倉まで行ったのは、もしかしたらついでに母のお墓参りに行こうと考えたからかもしれない。  鎌倉には私の母が眠っている。  元々母の実家は鎌倉にあって、うちの両親が結婚したときに祖父から大磯の別邸を譲り受けたらしい。  父も私も仕事を言い訳に親戚付き合いをしてこなかったから、鎌倉にはお墓参りに行くぐらいだった。  父はお墓参りに行くために鎌倉駅のコインロッカーに封筒を入れて、そのまま忘れて大磯に帰って来てしまったとか?  ううん。そそっかしい私と違って、父が大事なものをコインロッカーに入れ忘れて帰るなんてあり得ない。  何か理由があって、自宅にも研究所にも資料を置きたくなかったということだろうか。  「うーん」と首を捻って考えていたら、玄関の鍵を開ける音が聞こえてきて心臓が跳ね上がった。  え⁉ 誰だろう?  私、さっきドアを開けてから鍵をどうしたっけ?  猫の置物の下に戻した?    妊娠してから記憶力や思考力が減退した気がする。  まさか……今この家に入ってきたのは、父と秀太郎を殺した犯人⁉  ソファーから立ち上がって机の下に隠れようとしたけど、書類箱が押し込まれていて隠れる場所がない。  足音が近づいてくる。  どうしよう!   私が咄嗟にタッセルを外してドレープカーテンに身を隠すのと、廊下のドアがバタンと開く音がしたのはほぼ同時だった。 「涼香! どこだ? いるんだろ⁉」  男の声にビクッと身体を硬くしながらも、私はレースのカーテン越しに窓の外を見た。  失敗した。車があるから、私がここにいることは誰の目にも明らかだ。  私も殺されるのだろうか? ベビちゃんも……。 「ああ、なんだ。そんなところに隠れて……」  笑いを含んだ声が近づいてきたかと思ったら、バッとカーテンを引っ張られてしまった。 「えっ? 賢斗⁉」  目の前に立っていたのは、7年前に死んだはずの幼なじみだった。
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