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もしも3か月前に賢斗から連絡が来ていたら、私はどうしただろうか。
3か月前と言えば、ちょうど妊娠に気がついた頃だ。
私がそんな想像を巡らせかけたら、賢斗が意外なことを言い出した。
「電話したさ、もちろん。涼香も教授も携帯の番号変えただろ。繋がらないから、ここの固定電話に掛けたんだ。そしたら教授が出て」
「え⁉ ちょっと待って。賢斗が無事だったってことを、お父さんは知ってたの? 3か月も前に? 私、何も聞いてないわよ?」
「まあ聞けよ。教授に事の経緯を話したら、『涼香をそっとしておいてやってくれ』って言われたんだ。『涼香は秀太郎の子を身籠って幸せに暮らしてるんだ』ってさ」
「何それ」
自分でも眉間に皺が寄ったのがわかる。
結婚前に私が賢斗に恋していたことは、父にも秀太郎にもバレていた。
だからと言って賢斗が無事だったことを喜びもしないで、そんな邪魔者みたいな言い方をするなんて酷い。
「おかしいだろ? 今、考えれば変だってわかるのに、あのときは教授に突き放されたことがショックで不自然さに気づけなかったんだ」
「え? え? どういうこと?」
「秀太郎は俺を殺そうとしたのに、涼香が秀太郎と幸せになれるはずなんかなかったんだよな。何しろ記憶を取り戻したばかりで、俺もかなり動揺してたから」
悔しそうにわしゃわしゃと両手で髪を掻きむしる賢斗を、私は訳がわからずに見上げるばかりだ。
そういえば賢斗はこういう人だった。言葉が足りないというか、自分の思考の道筋を説明しないところがある。
「殺そうとしたって、どういうこと? ちゃんと初めから順序立てて話して」
私はソファーの隣をポンポンと叩いて賢斗に座るように勧めたのに、私のお腹がグーッと鳴ったせいで賢斗に笑われてしまった。
「仕方ないでしょ。お昼ごはん、食べ損ねたんだから」
「OK。なんか食べられるものがあるか見てくるから待ってろ」
賢斗がクスクス笑いながらキッチンに行ってしまったから、気になる話の続きはしばらくお預けだ。
それにしても。
さっきまであんなに心細かったのが嘘のよう。
賢斗がいてくれれば何とかなる。もう大丈夫。そんな気がする。
彼がキッチンから戻ってきたら、何のために日本に来たのか聞かなくちゃ。いつまでこっちにいられるのかも。
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