復讐を胸に

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「記憶が蘇ってすぐに電話したら、教授に『涼香をそっとしておいてくれ』って言われた話」 「ちょっと待って。それ、3か月前って言ったわよね? でも私、その頃はまだお父さんに妊娠したこと言ってなかったのに……」  同僚の阿部先生が早期流産したばかりだったから、父に話すのは安定期に入ってからにしようと思っていた。  結局、悪阻が酷くなってきて父に言わざるを得なくなったのが2か月前だ。  案外男の人は周りの女性が悪阻で苦しんでいても気づかないようで、父も職場の男性教諭たち同様、私が妊娠したと知ると驚いていた。  それなのに3か月前の電話で、賢斗に「涼香は妊娠している」なんて言えるはずがない。  誰かがその話を賢斗に告げたのなら、それは……。 「ああ。あのとき電話に出たのは教授じゃなくて秀太郎だったんだと思う。俺が電話の相手を教授だと勘違いしたのをいいことに、教授のフリをして俺に帰国するなと言ったんだ」 「秀太郎はどうしてそんなことを!」  どうしてと言いながらも、私には秀太郎の目的が明らかだった。  彼は賢斗が生きて戻ってきたら、私との結婚生活が壊れてしまうと考えたのだろう。  私がずっと賢斗のことを想い続けていると知っていたから。 「秀太郎は俺をライバル視してたからな。俺に涼香を取られると思ったんだろ?」  賢斗の言い方があまりに軽かったから、私は俯いて「そんなことないのにね」と呟いた。  賢斗は私のことなど何とも思っていない。  ただの幼なじみ。妹分だ。  それなのに秀太郎に恋のライバルだと思われていたことが、賢斗には心外だっただろうしバカらしいと感じていたことだろう。 「俺は涼香の幸せを願っている。昔、そう言ったよな? だから、その電話でも涼香と秀太郎の幸せをぶち壊す気なんてないとはっきり言ったんだ。教授のフリをした秀太郎にな」 「それで秀太郎はなんて答えたの?」 「『それでいい』って。おまえは死んだことになってるから、このままブラジルで骨を埋めろってさ」 「そんな言い方したの!? ごめんなさい。秀太郎のせいで……」  自分がどこの誰かをやっと思い出せたのに、養父だった父に拒絶されたと思い込んだ賢斗はショックだっただろう。  父だって、秀太郎のせいで賢斗に再会できないまま死んでしまった。  いくら私を取られるのを恐れたからとはいえ、秀太郎のしたことは酷すぎる。 「いや、教授がそんなこと言うわけないのに、すっかり騙された俺が悪いんだ。帰ってくるなって言われてもやっぱり日本が恋しくてさ。帰国の準備をしていくうちに、やっと(あれは秀太郎だったんじゃないか)と思い至ったんだから遅すぎたよな」  賢斗が自嘲気味に肩を竦めた。
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