復讐を胸に

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「そういえば、さっき秀太郎が殺そうとしたとか言ってたけど……。一体、いつ、どんな状況で?」  本当なの?と訊きそうになって、慌てて言い換えた。  賢斗が嘘をつくはずがない。  でも、”殺そうとした”なんて穏やかじゃない。 「アマゾンでだよ。俺が川に落ちたのは秀太郎に突き飛ばされたからだ」 「そんな!」 「信じられないだろうけど本当のことだ」 「ううん、賢斗の言うことだもの、信じるわ。でも、秀太郎がどうして?」 「うん。俺も記憶が戻ってから、秀太郎がなぜあんなことをしたのか何度も考えた。秀太郎と俺は仲がいいとは言えなかったが、殺されるほどの恨みを買った覚えはないからな。でも……やっぱり秀太郎は何が何でもおまえと結婚したかったんだろう」 「それって……私がプロポーズにすぐにYesって言わなかったから? 私のせいで……賢斗は7年もの間、記憶を失くす羽目になったってこと? それどころか死んでいたかもしれない。私のせいで……」  あまりのことに手も声も震え出した。  秀太郎がプロポーズしてきた時、私は断ろうとした。でも、秀太郎は私の言葉を遮って、「返事は僕がアマゾンから帰った後に聞かせてくれ。それまでよく考えて」と言ったのだ。  まさか、あの時すでに秀太郎は賢斗を殺すつもりでいた?   「涼香のせいじゃない。俺さえいなくなれば、涼香が自分のモノになると思った秀太郎のせいだ。……亡くなった人を悪く言いたくはないけどな」 「秀太郎がそんな恐ろしいことを平気でする人だったなんて……」  私は思わずお腹を押さえた。  この子を妊娠するまでは、確かに秀太郎は私のことを愛してくれていた。少し引くぐらいの愛情で。  それなのに待ち望んでいた赤ちゃんがこの身に宿った途端に、秀太郎が余所余所しくなったのが不思議で仕方なかった。  だから、彼の浮気を疑ったのだけど、あれは賢斗が生きていたことを知った故の動揺だったのか。  賢斗が秀太郎に殺されかけたと告発すれば、秀太郎は殺人未遂の容疑者となる。  当然、私は秀太郎を軽蔑して離婚を申し出ていたかもしれない。  だから、秀太郎は咄嗟に父のフリをして、賢斗の帰国を全力で阻止したのだろう。 「ショックだよな? 愛し信頼していた夫が実はそんな奴だったんだから。……それでも涼香はその子を産むんだよな?」 「もちろんよ! そりゃあまだ()ろそうと思えば堕ろせる週数だけど、この子には何の罪もないでしょ?」  「そうだな」と賢斗は深く頷いたけど、秀太郎はもうこの世にはいないし、そんな男の子どもなんて中絶した方がいいというのが普通の考えなのかもしれない。  でも、誰が何と言おうと私はこの子を産んで育てる!  私は心に誓った。
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