復讐を胸に

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「賢斗は帰国の準備をしながら、3か月前の電話の相手がお父さんじゃなくて秀太郎だったんじゃないかって気づいたんでしょ? どうしてそう思った時点でもう一度電話してこなかったの?」  ふと疑問に思ったことを口にしたら、パクパク美味しそうに食べていた賢斗の手がピタリと止まった。 「それは……危険だと思ったからだ」 「危険?」 「秀太郎の身になって考えてみたんだ。アマゾンで殺したはずの俺が生きていた。この7年間記憶を失っていたがすべて思い出したと言う。殺人未遂の証拠なんて何もないから逮捕は免れるとしても、日本でその話を俺にバラされたら秀太郎にとっては大スキャンダルだ。だろ?」  証拠がないから罪に問えない……。確かにそうか。突き落とすのなんて一瞬のことだし、目撃者もいなかった。 「咄嗟に教授のフリをして帰国を阻止できた。きっと涼香の幸せのために賢斗は僕の罪を黙っているだろう。秀太郎はそう考えながらも、自分の犯した罪が発覚するのを恐れたはずだ」 「それでかしら。3か月前から秀太郎の様子が変だったの。ちょうど妊娠がわかった頃からだったから、浮気を疑ったりもしたんだけど」 「浮気!? それは絶対にない。秀太郎は教授のゼミ生になったときからずっと涼香一筋で、俺を殺してでも手に入れたいと思ってた奴だぞ?」  賢斗は何をバカなと言わんばかりに首を横に振ったけど、7年間の夫婦生活で秀太郎の気持ちは少しずつ私から離れていったような気がする。  その原因は私が賢斗を忘れられないからだと思っていたけど、どうなんだろう。今となっては秀太郎に真意を尋ねることは出来ない。 「俺がもう一度教授に電話して、そのことがもしも秀太郎にバレたら、秀太郎は教授を殺すかもしれない。それが怖くて電話できなかった」 「いくらなんでもお父さんまで殺そうとするなんて」  賢斗の考えすぎだと言いかけた私は、彼にギロッと睨まれて言葉を飲み込んだ。 「実際俺は殺されかけた。秀太郎はそういう奴なんだよ。俺は妻に助けられたから九死に一生を得たけど、そうじゃなかったら確実に死んでたんだ」 「妻? ああ、やっぱり。助けてくれた女の人と結婚したのね?」  心が悲鳴を上げていたけど、平静を装って微笑んだ。  「うん」と頷いた賢斗の薬指に結婚指輪が嵌っていないのは、きっとサイズが合わなくなったからだろう。  Tシャツの袖から覗いた賢斗の二の腕は日に焼けていて、7年前とは比べ物にならないほど太くなっている。  自分だって秀太郎と結婚していたくせに、賢斗が私以外の女性と恋に落ちて結婚までしていたという事実にズキズキと胸が痛んだ。
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