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「そうだ、賢斗に見てもらいたいものがあるの。父と秀太郎を殺した犯人の動機はコレかもしれない」
私が食べ終わったカップ麺の容器を片づけて、机に置いていたクリアファイルを手に持つと、賢斗は「どういうことだ?」と怪訝な顔をした。
私はソファーに座り直して、「実はね」と今朝の父とのやり取りや渡辺さんとの会話を順を追って話し始めた。
賢斗は高校生の頃から父の助手としてオーパーツ研究に携わってきた。
彼がブラジルにいたこの7年間は研究から遠ざかっていたとしても、一切研究に関わらせてもらえなかった私よりは遥かにオーパーツに詳しい。
「その資料によると、掛け軸自体は本物だけど宇宙船は誰かが後から描き足したものだってことよね?」
「そうだな。秀太郎はこれを本物だと信じて著書に書いてしまったのか?」
「たぶんね。疑わしいと思った父が専門家に調べてもらって、オーパーツじゃないと確信したから秀太郎にこれを見せて教えようとしたんだと思うの」
「いや、電話で『オーパーツじゃない』と一言言えば済むことだろ? 出版社に待ったをかけなくちゃいけないんだから、なるべく早く教えてやらないとと教授は思ったはずだ」
言われてみればその通りだ。
すでに大学を退職していた父と違って、実業家の秀太郎は忙しい人だった。
秀太郎に会って資料を見せようとしても、なかなか都合がつかなくて先延ばしになったら本が世の中に出回ってしまう。
だったらサクッと電話で伝えてから、私経由で資料を見せればいい。
「そっか。だから、父は私に資料を託したのかも。秀太郎には偽物だということだけ電話で話して」
「そうだな。……おそらく秀太郎は教授に言われても、偽物だということを信じられなかったと思う。自分がついにオーパーツを発見したと有頂天になっていただろうからな」
「じゃあ、秀太郎の車が父の家にあったのは、父に呼ばれたからじゃなく秀太郎の方から詳しい話を聞きに来ていたからなのかもね」
「一体誰が2人を殺したのか……」
賢斗が腕を組んで考え込んだけど、秀太郎を騙したのが誰なのかは、私たちがいくら考えてもわからないだろう。
「明日事情聴取を受けに警察に行くから、捜査状況がどうなってるか訊いてくるわ。犯罪現場となった実家は立ち入り禁止だから、今晩はここに泊まることにする」
「は? 妊婦が何言ってる。ちゃんとホテルに泊まれよ」
「そうしたいのは山々だけど、どこも満室なのよ」
私が肩を竦めると、賢斗が「だったら俺と一緒の部屋に泊まればいい」ととんでもないことを言い出した。
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