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「きゃあ!」
奈美の姿に驚いて悲鳴を上げたつもりだったけど、現実の私はただ苦しそうに呻いただけらしい。
「大丈夫か? 嫌な夢でも見たか?」
隣のベッドに腰かけていた賢斗に訊かれても、まだ心臓がバクバクしていてすぐには答えられなかった。
「奈美が……血まみれの手で凶器のペーパーナイフを持ってた。なんであんな夢見たんだろう。私がペーパーナイフを持ってるところを奈美に見られたからかな」
「田中奈美か。まだ隣に住んでたんだな」
そっか。賢斗はこの7年間の奈美を知らないから、ずっと結婚せずに実家にいると思ったのだろう。
私が奈美との関わりを話すと、賢斗も「新居の隣に引越してくるって異常だろ」と驚いていた。
「今だから話すけど、あいつ、事あるごとに俺を誘惑してきてうざかった」
「知ってる」
たぶん奈美は私が賢斗に片思いしていることを知っていて、賢斗を手に入れようとしていたのだろう。私に勝ちたい一心で。
でも、奈美がどんな露出度の高い服で誘惑しようとしても、賢斗は嫌そうな顔で突っぱねていた。
「なんだ、知ってたのか」
「新婚当時、秀太郎のことも誘惑してたみたいよ。せっかく弁護士を捕まえたのにね」
そんなことをしているから、夫に浮気がバレて家を追い出される羽目になるんだ。
「ふーん。田中奈美ねえ。なんか一番怪しくないか?」
賢斗が突然そんなことを言い出すから、私は「あの子は怪しいんじゃなくておかしいの」と頭の上で指をクルクル回して見せた。
「教授の家の合鍵持ってるんだろ? おまえが遺体を見つけた時、窓の外から見てたんだろ?」
「まあそうだけど。2人を殺す動機がないでしょ」
奈美は決して頭が悪いわけじゃなく、むしろ悪知恵が働く方だ。
だからといって、私を陥れるためだけに殺人を犯すとは思えない。
「重要なのは、犯人が窓を割ったり玄関の鍵を壊したりせずに家の中に入れたってことだよ。教授が警戒せずに招き入れたのか、合鍵を持っていたのかどっちかしかない。教授はオーパーツを巡って散々人に騙されてきたからか、気難しくて他人を信じないところがあっただろ?」
さすが賢斗。父の性格をよくわかっている。記憶は完全に戻っているみたいだ。
「じゃあ、顔見知りの犯行?」
「秀太郎は合鍵を持ってたのか?」
「ううん。私が持っていたから彼には必要なかった。父の家に行くときは大抵一緒だったし」
そういえば研究所の合鍵の場所は秀太郎も知っていた。だから、父のフリをして賢斗からの電話に出られたんだろうけど。
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