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「防犯カメラの映像って、どうやって消去するんだ?」
黙って私たちの会話を聞いていた賢斗が電話が終わるとすぐに訊いてきたけど、そもそも映像を消去したことがないからよくわからない。
「実家の防犯カメラは、確かSDカードに映像を保存するタイプだったと思う。だから、犯人が消去しようと思ったらカメラからSDカードを抜いて」
「パソコンに差し込んで削除したのか。SDカードを抜いて持ち去ればいいだけのことなのに、わざわざ戻したってことだよな?」
丸さんはデータの復元を試みていると言っていた。ということはSDカードがカメラに残っていたということだ。
「そうよね。そのまま持ち去れば復元も出来なかったのに……」
不可解な行動としか思えない。
「犯人はおそらく涼香が来ることを知らなかったんだろうな。たまたま涼香が訪ねてきたからまだ教授の息があるうちに発見されたが、そうじゃなかったら死後何週間も、いや下手したら何か月も発見されなかったかもしれない」
「なるほど。防犯カメラの映像はどんどん上書きされていくから、SDカードを戻しても大丈夫だと犯人は思ったのかもね」
オーパーツを求めてよくフラッと海外に行っていた父はともかく、秀太郎は実業家としての仕事があるのだから失踪したらすぐに妻である私の実家まで捜索されただろうに。
え、もしかして……。
「犯人の狙いは秀太郎じゃなく、父の方だった?」
私が思いついた考えを口に出すと、賢斗も意表を突かれたのかベッドが軋む音がした。
「私、今の今まで狙われたのは捏造品を掴まされた秀太郎の方で、父は巻き添えになったんだとばかり思ってたけど違ったのかも。父の家なんだから、父を殺しに来たらたまたま秀太郎がいたと考える方が自然よね?」
「いや、だけど教授がどうして命を狙われたって言うんだ? 教授は最近何かオーパーツらしきものを見つけたのか?」
「ううん。そんな話は聞いてない」
もしも何か発見していたら、きっと父は得意げに秀太郎や私に知らせてきただろう。
「犯人の狙いは秀太郎だったのか教授だったのか。犯人が1人だったのなら、同時に2人を殺すことは不可能だ。どちらが先に殺されたのか……」
賢斗が腕を組んで考え込む。
私も実家の応接間に足を踏み入れた時の情景を思い出そうとしたら、お腹の下からグーッとせり上がってくるような吐き気を感じた。
それをやり過ごすことは、ここ3か月の悪阻で慣れている。
深呼吸をして心を落ち着けてから、もう一度”あの時”に意識を向けた。
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