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秀太郎は応接間の入ってすぐのところに倒れていたし、目を見開いて絶命していた。それに対して父は奥の机の前に横たわっていて、まだ息があった。
「犯人は応接間に入ってまず近くにいた秀太郎を刺し、その後に父を刺したと考えるのが順当よね」
「そうだな。玄関ポーチに秀太郎の車が停まっていたから、犯人も秀太郎がいることはわかっていたはず。まだまだ海外を飛び回る元気はあったものの還暦を過ぎた教授よりは、若くて力のある秀太郎を先に制圧しなくてはと考えるのが普通だ」
でも……。
「それだと、お父さんは秀太郎が刺されるのを見ていたはずよね」
たまたま背中を向けていて刺された瞬間を見ていなかったとしても、秀太郎の悲鳴を聞いて振り返ったら何が起きたかわかる。
「それなのにお父さんは『秀太郎は無事か?』とは尋ねなかった。そこがどうしても引っかかるの。……もしも刺された順番が逆だったら?」
「そうか。犯人が教授の家に着いたとき、秀太郎はまだ来ていなかった。応接間に入って犯人はターゲットの教授をまず刺す。その後、防犯カメラからSDカードを抜き取り応接間に戻ってノートパソコンで映像を削除していると、秀太郎の車がやってくる」
「で、何も知らずに応接間に入ってきた秀太郎を刺す」
言いながら拳を握って人を刺す動きをした自分に怖くなって、慌てて右手をパッと開いた。
でも、これなら辻褄が合う。
先に刺されたものの、たまたま父は即死じゃなかった。うつ伏せに倒れていたし、私が呼びかけるまで気を失っていたのかもしれない。だったら秀太郎が来たことを知らなくても無理はない。
「大丈夫か? 顔色が悪い」
賢斗に顔を覗き込まれて「平気」と答えたものの、気分が落ちてしまったのは事実だ。
「ごめん。涼香に推理させることじゃなかったな。夕食、部屋に運んでもらおう」
ルームサービスで簡単に食事を済ませて、賢斗が大浴場から戻って来てから私は部屋のお風呂に入ることにした。体調が万全じゃないし転倒が怖いからだ。
寝室に戻ったら、2つ並んだシングルベッドに横たわってお互い気まずくなりそう。
そう予想しながらバスルームを出ると、賢斗は自分のベッドで大いびきをかいて爆睡していた。
「7年ぶりに帰国したばかりだものね」
賢斗の寝顔は、少年の頃の面影が残っていた。
気まずい夜を迎えなくて少しホッとしたけど、もっといろいろ話したかった気もする。
昔の思い出話や、会えずにいた7年間のこと。そして、これからのことも。
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