底なしの闇

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 翌朝はスイートルームの大きな窓に雨の雫が細い筋となって流れていて、黒い雨雲に気分もどんよりとしてしまった。  朝食はルームサービスを頼んだけど、パクパク食べる賢斗には足りなかったんじゃないかと思う。 「お父さん、お母さんが亡くなったときに『盛大な葬式を上げるのは俺の見栄だ。俺のときは簡素でいいから』って言ってたよね」 「ああ。『家族葬がいい』って言ってたな。海に散骨してほしいとも」 「そうだったわね」 「呼ぶのは教授の兄弟と親友ぐらいか」  賢斗と人数を確認していく。 「葬祭センターの人が来る前に、丸さんにいつ頃遺体を引き取れるか聞いてみようかしら」 「ああ、そうだな。じゃあ、スピーカーにして」  賢斗に頷きながら、私はスマホに丸さんの番号を表示させた。  電話に出た丸さんに尋ねると、司法解剖にはあと数日かかるとのことだった。 「死因は2人ともペーパーナイフによる刺し傷が原因の出血性ショックですか?」  ふと思いついて尋ねると、丸さんが「え……」と驚いたような声を上げた。 「それが……違うんです。池山さんの方はその通りですが、秀太郎さんの死因は鈍器のようなもので殴られたことによる頭部外傷でした。池山さんの刺し傷が現場に落ちていたペーパーナイフによるものだったかは照合中です」  丸さんが少し声を潜めたところをみると、本当は事件関係者の私にはまだ漏らしてはいけない情報なのかもしれない。 「となると警察は複数犯の可能性も視野に入れて捜査しているということでしょうか?」 「はい」 「防犯カメラの映像は復元できたんですか?」 「まだです」 「そうですか。これから葬儀社との打ち合わせがあるので、午後そちらに伺います」   電話を切って一息つくと、葬祭センターの人が訪ねてきたとフロントから連絡が入ったので部屋まで来てもらった。  打ち合わせはカタログを見ながらサクサクと進んでいく。  とにかく簡素にということで、棺も祭壇も花も骨壺もすべて一番質素で安いものを選んだ。母のときは棺の内布をピンクにするか紫にするかで悩んだけど、今回は白一択で悩む余地がないのは楽でいい。  一応、今週の土曜日の家族葬用のホールを抑えてもらうことにした。実家の近辺では家族葬をあげる人が少ないので空いているらしい。  諸々すんなり決まったとは言え些末なことがいろいろあって、打ち合わせには結構時間がかかった。担当者が帰っていくと、もうお昼だった。
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