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「山田賢斗です。7年前まで池山教授の助手をしていました」
「7年前に出国した後、ずっと海外にいましたか?」
「はい。旅先で記憶喪失になったため、一昨日までブラジルで暮らしていました」
賢斗が簡単に説明すると、受付から連絡を受けた丸さんが嫌味な男と一緒に階段を降りてきた。
「山田賢斗。死んだはずの男が7年ぶりに帰国した翌朝に、師匠と兄弟子が殺された。これは偶然か?」
嫌味な警官が賢斗ではなく丸さんに問いかけた。
どうやら私以上に賢斗が怪しいと思われてしまったようだ。
「秀太郎は兄弟子ではなく弟弟子です。俺の方が年下でも教授の助手になったのは早かったので」
「なるほど。弟弟子が自分より可愛がられて師匠の娘婿になった。それが気に食わなくて、師匠もろとも殺害したのか」
嫌味な警官が決めつけるように言うから、私は勢いよく立ち上がった。
「何の根拠もないのに単なる憶測で人を殺人犯呼ばわりしていいと思ってるんですか? バカなこと言ってないで、これを見てください」
グイッと押し付けるように渡辺さんがFAXしてくれた資料を嫌味な警官の顔の前に突き出した。
「これは?」
「父が死ぬ間際に私に託したコインロッカーの鍵、調べましたか? たぶんこれと同じものが入っていたと思いますけど」
「すみません、まだ鎌倉には行けてなくて」
丸さんがすまなそうに眉を下げたけど、人手不足というよりはコインロッカーの鍵を重要視していなかったみたいだ。
「これを読んでいただければわかると思いますが、夫は誰かに捏造品を掴まされたみたいなんです。それが犯人じゃないでしょうか。捏造品だとバレそうになったんで殺したとか」
「詳しい話はあちらで伺います」
どうぞと丸さんに促されて、私たちはエレベーターで2階に上がった。
会議室のような狭い部屋に通され、昨日実家で訊かれたのと同じような質問に答えていく。
明らかに私を疑っている嫌味な奴が目の前にいるので、失言しないように気をつけていたら手に汗をかいていた。
「これで聴取は終わりです」
丸さんの言葉にホッと息を吐き出したけど、また嫌味な警官が「大谷涼香は帰国したばかりの山田賢斗と合流して、もっともらしい話をでっち上げ警察に来た。2人ともバカなのか?」と私たちがここにいないかのように丸さんに話しかけた。
きっとこいつは本人に面と向かってモノが言えないビビりなんだろう。
賢斗も私と同じことを思ったのか、ムッとしたように顔をしかめると「言いたいことがあるなら、相手の目を見てはっきり言えよ」と嫌味な警官の正面に立った。
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