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「帰国してからの俺の足取りは簡単にわかるはずだ。夜遅く空港に着いて、まっすぐホテルに行って寝た。昨日の朝はホテルで朝食を食べて、タクシーで教授の家に向かった。着いたときにはすでに2人の遺体が運び出された後だった。空港やホテルの防犯カメラ、タクシーのドラレコを調べれば、俺が教授たちを殺していないことはすぐにわかるよ?」
背の高い賢斗が腰を少し屈めて嫌味な警官の目線の高さで諭すように言う様は、まるで悪さをした小学2年生に私が言い聞かせるときのようだ。
「もちろん調べるが、あんたは殺してなくても大谷涼香の事後従犯という可能性はある」
またもや私のフルネームを呼び捨てにした男に、いい加減私は堪忍袋の緒が切れた。
「その大谷涼香とやらの容疑は固まったんですか? 物的証拠は?」
私が腰に手を当てて嫌味な男を睨み上げると、彼は顔を背けて「容疑者に捜査状況は明かせない」とボソボソと答えた。
すると今まで黙っていた丸さんが「岸田さん、いい加減にしてください!」と怒鳴ったのでビックリした。
「大谷涼香が殺人犯で、データを消去したのは共犯者かもしれないだろ?」
岸田はまた私を見ずに丸さんの方を向いている。
「ちょっと待った。録画データは涼香が実家に到着する前に消されてたんだろ? 涼香よりも先に家に忍び込んで逃走した奴がいるのに、どうして遺体を発見して呆然としてた涼香が実行犯だって言うんだよ?」
答えに詰まって岸田が目を泳がせていると、「岸田、ちょっと来い」と偉そうな中年男性に呼ばれたために岸田は部屋を出ていった。
「すみません、いつもはあんな人じゃないんですけど……。そうだ。防犯カメラのSDカードの映像が復元できたんですが、SDカードを抜き取ったのは秀太郎さんでした」
「ええっ⁉」
丸さんの意外な話に、賢斗と私が異口同音に叫んだ。
「どうして秀太郎が? あ、犯人に抜き取ってこいと命令されたんですね」
私が手を打って自分の思いつきを口にすると、丸さんは「そういうことも考えられなくはないですが」と奥歯に物が挟まったような言い方をした。
「そもそも犯人らしき不審人物が映っていないんです」
「え?」
「あの日、玄関の前に現れたのは秀太郎さんだけでした」
「それはつまりSDカードを抜き取るまでは、ということですよね? だったら犯人が秀太郎を脅して一緒に車で来て、秀太郎にSDカードを抜き取らせてから家に一緒に入ったということなんじゃないんですか?」
私が確信をもって言ったのに、賢斗も「んー」と異論がありそうに首を傾げた。
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