底なしの闇

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「もしもそうならデータを削除する必要はなかっただろ?」 「は?」 「復元された映像に犯人は映ってない。それなのにわざわざパソコンに入れて削除したのはなぜか」  賢斗に言われて、やっと私もその意味に気づいた。 「それは……映っていた人物が自分が映っている映像が残っていては都合が悪いから消したってこと? つまり秀太郎が?」 「はい、秀太郎さんが犯人の一味だった可能性が濃厚です」 「そんな!」  思わず丸さんに反論するみたいに叫んでしまったけど、確かに秀太郎しか映っていない映像を削除する必要があるのは秀太郎だけだ。 「涼香、深呼吸しろ」  賢斗と丸さんが心配そうに私を見ている。フーッと口をすぼませて息を吐き出し、「もう大丈夫」と頷いてみせたけど全然大丈夫じゃない。  今の今まで秀太郎も被害者だと思っていたのに、犯人の1人だったかもしれないなんて……。  昨日賢斗の話を聞いてから秀太郎に対する見方が180度変わったけど、まるで底の下にまだ底があったみたいな感じがする。 「確かにこの資料によると、オーパーツを捏造した犯人が口封じに池山さんを襲ったと考えられますね。そうなると、捏造犯と秀太郎さんがグルだった可能性が高いと思われます」 「グル? ということは秀太郎はオーパーツが偽物だと知っていたってことですか?」  まるで底なし沼のようだ。秀太郎の闇はどこまで深いのだろうか。 「池山さんのスマホは暗証番号が生年月日だったので、通話記録を見ることが出来ました。ここ最近で池山さんが通話した相手は涼香さんだけでした」 「夫とのメッセージのやり取りはありませんでしたか?」 「ありました。池山さんの『掛け軸はオーパーツじゃないぞ』というメッセージに対して秀太郎さんは『老いぼれの戯言など誰が信じるか。言ったもん勝ちだ』と返してました」 「え……」  秀太郎は大学時代から父に師事していて、義理の親子となってからも2人の関係は良好だとばかり思っていたから、秀太郎の酷い言葉が私には信じられなかった。 「『言ったもん勝ち』? てことはやっぱり秀太郎は捏造だと知ってたんだな」 「そんなニュアンスでした」 「どういうことでしょう? 夫はオーパーツが捏造された偽物だと知りながら、世紀の大発見だと著書に謳っていたということでしょうか?」 「秀太郎さんは『涼香とお腹の子の幸せを考えたら余計なことは言えないはずだ』と、池山さんを脅すようなメッセージも送っていました」
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