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「だから教授は資料をコインロッカーに隠したんだな。自宅や研究所に持ち帰ったら、秀太郎に奪い取られると考えて」
「でも、秀太郎がオーパーツだと発表したら世界中の研究者たちが調べに来て、すぐに掛け軸が捏造されたものだとバレると思うんだけど?」
「掛け軸が盗まれたことにすればバレない」
「へ?」
素っ頓狂な声を上げたのは丸さんだ。
「オーパーツを見つけたが何者かに盗まれてしまった。そんな経緯でも秀太郎はオーパーツ研究の世界に名を残すことができると考えたんじゃないかな」
「なるほど。やっぱり秀太郎さんが捏造犯を手引きして、資料を盗もうとしたんでしょう。もしかしたら渡辺さんの存在を突き止めようとしたのかもしれませんね」
自分の夫がそんな悪事を企てていたなんて信じられなくて、私はただただ首を横に振っていた。
「それで池山さんのパソコンなんですが、パスワードわかりそうですか?」
丸さんが身を乗り出して尋ねてきたということは、まだパスワードの解析は出来ていないらしい。
「いくつか候補を考えてきました」
「じゃあ、どんどん試してみましょう」
丸さんは机の上に置いてあった父のノートパソコンをパカッと開いて電源を入れた。
「では、まず賢斗が養子としてうちに来た日付を……」
年月日を私が言ったら、賢斗はノートパソコンから目を逸らした。
賢斗のその反応は、まるで自分が私の父に大切に思われていなかった事実を突きつけられるのを恐れたみたいで、私も申し訳ない気持ちになる。
でも、丸さんが数字を打ち込むとパッと画面が変わった。
「開いた‼」
丸さんと私は同時に叫んで、思わずハイタッチをしてしまったほど。
賢斗は信じられないという表情でノートパソコンを見つめている。
「ほらね。お父さんは賢斗が息子になってくれて嬉しかったのよ」
賢斗の広い背中をそっと撫でると、「うん。なのに俺は自分の感情を押し通して離縁しちまった」と言って賢斗が項垂れた。
「お父さんは賢斗が離縁したいって言い出したとき、『そりゃそうだろうな』って納得してたの。だから賢斗が気にすることない」
父は最初から賢斗が成人するまでの養子縁組だと考えていたようだった。
賢斗が養護施設に送られないように、里子に出されないように。父はただそれだけを考えていたのだろう。
感傷に浸っていた私たちとは違い、丸さんはすぐにタスクバーのエクスプローラーをクリックした。
ズラリと並んだフォルダー。この中のどれを父は私に見せたかったのだろうか。
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