ある朝突然に

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 日曜日だからか、神奈川に入っても少し混んでいる。渋滞というほどではないけれど。  自宅のある文京区白山から、大磯町の実家を目指して車を走らせていた私は、雲間から顔を覗かせた久しぶりの太陽に目を細めた。  カーオーディオからは快活な女性ナビゲーターの声が流れてきて、FMラジオの朝の情報番組が始まったことを教えてくれた。  秀太郎へのインタビューのコーナーはもう少し後だろうか。  急に緊張してきた自分がおかしくて、ギクシャクしていてもやっぱり夫婦なのだなと苦笑した。  秀太郎は「収録は上手くいったよ」と話していたのだから、今さら何も緊張することはないのにドキドキしてしまう。 ――それでは本日のゲスト・大谷秀太郎さんにお話を伺います。大谷さんは実業家として知られていますが、実はオーパーツ研究でも世界的に有名だとか。近々その研究の成果をまとめた著書を出版されるそうですね。 ――はい。今日はその本の宣伝に来ました。  秀太郎が冗談めかして言うと、ナビゲーターの門野さんが「あはは」と楽しそうな笑い声を上げた。  よしよし。出だしはいい感じよ、秀太郎。  私は一言も聞き逃すまいと、カーオーディオのボリュームを上げた。 ――すみません。そもそもの話なんですけど、オーパーツって何でしょうか?  門野さんは下調べをして知っているはずなのに、オーパーツを知らない多くのリスナーに代わって質問しているのだろう。 ――そうですね。オーパーツとは一言で言うと『あるはずのないもの』です。 ――あるはずのないもの? ――はい。例えば有名なところではナスカの地上絵があります。航空写真で見なければ全体像が判らないような巨大な地上絵は、古代に宇宙人が地球に飛来して超古代文明を授けた証拠だという人もいます。 ――なるほど。その時代にソレがあるのが不自然だということで、”場違いな工芸品”out-of-place artifactsを略してOOPARTSと呼ばれるんですね。  門野さんの英語の発音がネイティブ並みに滑らかで感心する。 ――そうです。他にもロシアで発見されたカンブリア紀の金属ボルトというのがありまして。 ――カンブリア紀に金属ボルトですか⁉ カンブリア紀って三葉虫の時代ですよね? ――はい。15億年以上前に生成された石の中にボルトが埋まっていたのですが、数トンの力を加えても変形せずX線で石を見たところ中に同様のボルトが10個ほどあるのが確認できたんです。このことから、15億年前に地球にやってきた宇宙船が何らかの原因で故障・爆発し飛び散った部品の一部だと言われています。  秀太郎の口調が熱を帯びてきた。
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