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「やっぱり奈美が怪しくないか? 秀太郎は教授の家の合鍵を持っていなかったんだろ?」
賢斗に頷いて、「私がいつも持ち歩いていたので、秀太郎は鍵を複製することも出来なかったはずです」と丸さんに説明する。
「となると捏造犯と秀太郎を手引きできたのは、合鍵を持っていた奈美じゃないでしょうか? 奈美は昨日父に掃除を依頼されていましたか?」
「はい。朝、垣根越しに池山さんから口頭で頼まれたと言っていました」
「口頭でですか……」
怪しいけど、依頼したメッセージが残っていなくても頼まれていなかったとは言いきれない。
賢斗が奈美の言葉を疑うように鼻を鳴らしたところで、会議室に警官が勢い良く入ってきた。
「スマホが見つかりました!」
「わかった。すぐに行くわ」
丸さんは私たちの方を振り向くと、「秀太郎さんのスマホが現場から消えていたんですが見つかったようです。詳しいことはまたご連絡します」と早口で説明した。
「スマホの暗証番号は私たちの結婚記念日です。……彼が変えていなければ」
言い添えた言葉が我ながらずいぶん自信なさげに感じた。
もう私には秀太郎のことがわからない。
私が知っていた秀太郎は、賢斗をアマゾン川に突き落としたり、贋作だと知りながらオーパーツを発見したと本に書いたり、「余計なことを言うな」と私の父を脅すような人間ではなかった。
丸さんは「わかりました」と頷いて、ノートパソコンを手に急いで部屋を出ていった。
警察署を出た私たちは賢斗の運転で大磯グランドホテルに向かっていたけど、「あの岸田って男、マジでムカつく奴だな!」と賢斗が吐き捨てるように言うから、私も後部座席で「本当にね」と頷いた。
「なあ、あいつ、どこかで見たような気がしないか? 童顔だから若く見えたけど、丸さんにタメ口きいてたってことは俺らと同じぐらいの歳なんじゃないか?」
そういえばそうだ。もしも岸田も大磯出身なら……。
「岸田信蔵だ! ほら、小6のときにおまえがフッた中学生!」
「へ? 誰?」
「憶えてないか。これだからモテモテの涼香さんは困るよ。フッた男は数知れずだもんな」
賢斗はやれやれと首を横に振ったけど、そんなモテ女の私に見向きもしなかったのは誰だっけ?
「ニキビ面した中学生が、おまえが学校から帰ってくるのを待ち伏せして告白してきただろ? っていうか何も言わずに手紙を突き出してきただけだったって、おまえ言ってたけど」
私は必死に思い出そうとしたけど、そんなことはよくあったから一々憶えていない。
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