ある朝突然に

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 秀太郎はいつもこうだ。オーパーツのこととなると夢中になって語り出し、周りに引かれているのに気づかない。  さっき門野さんは秀太郎のことを「オーパーツ研究で世界的に有名だ」と紹介したけど、秀太郎は何かオーパーツを発見したとか信ぴょう性の高い説を発表して有名なのではない。  オーパーツらしきものが出たと聞けば、世界中どこにでも駆けつける。そして、とりあえず金に糸目を付けずに手に入れる。だから有名なのだ。  オーパーツには秀太郎のような好事家(こうずか)がいるから、その金を狙っての贋作や捏造も数多い。オーパーツとされる遺物のうち本当に学術的にその価値を認められるものは、ごくごく限られる。  だからこそ、そんな希少なオーパーツを発見したいという情熱に駆られるのだろうけど。  私がフーッとため息を吐き出したのは、今向かっている先にいる私の父も秀太郎と同類だからだ。  父・池山喜一(きいち)はオーパーツ研究のために資産家の娘と結婚し、その財産のほとんどを使い果たして家族のことは顧みなかった。  発掘に行く父の背中を見送る母は、いつも寂しそうだった。  夫に愛されることなく他界した母を思えば、夫を愛せない私の寂しさなんて贅沢な悩みだろう。  私が秀太郎と結婚したのは、そうすれば彼が父の研究のために資金援助すると申し出てくれたからだ。  父に無理強いされたわけでもないのに、父のためだと自分に言い聞かせて秀太郎と夫婦になった。  私が本当に結ばれたかった人は賢斗だったけど、彼には愛されなかったし亡くなってしまったから……。  だけど、他の人と結婚しても賢斗への思いは消えなかった。それは彼が亡くなった今でも同じ。 「でも、ベビちゃんが生まれてくれたら、きっとママの気持ちも変わると思うの」  夫として愛せなくても、この子のパパとして秀太郎を愛せるようになるだろう。私はまたお腹をそっと撫でた。 ――凄いですね。世界中にそういったオーパーツがあるなんて、ロマンを感じます。  あれもこれもとオーパーツの例を挙げ続けていた秀太郎だったが、門野さんがそろそろまとめにかかったようだ。 ――そうでしょう? そう思った方は是非僕の本を買ってください。アッと驚く重大発表も書かれていますから。 ――え、何でしょう。気になりますね。大谷さん、本日はありがとうございました。  インタビューコーナーの終わりのメロディーが流れ、私は知らず知らずに止めていた息を吐き出した。  さすが秀太郎。人前で話すことには慣れているから、今日のラジオは百点満点の出来だったんじゃないだろうか。  小学校教諭のくせに、いつまで経ってもあがり症が治らない私とは大違いだ。  それにしても……アッと驚く重大発表とは何のことだろう?
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