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上空の新鮮な空気と森の中のガスを含んだ空気を常に循環させ、それを身に纏わせたのだ。
これで死の森の中でも硫黄ガスを吸うことなく歩くことができる。
死の森はその名の通り生命というものが感じられない。
酸性雨の影響か、木々は枯れ黒く変色している。
そろそろ日の出であるはずなのに、朝日が射さず薄暗いのは黒くくすんだ空気があたりに立ち込めているからだろうか。
イリアはかつて見たシュバルツバルトの風景に似ていると感じた。
「う……」
「ウィル、大丈夫か? 少し休もう」
カインに肩を抱えられて歩いていたウィルが小さく呻いた。
逃げる時に無理して走ったせいだろう。額に玉のような汗が浮かんでいる。
それを少しだけ拭いながら、ウィルは崩れるように地面に膝を着いた。
カインに介添えされて腰を下ろしたウィルはもう一度顔を顰める。
「傷が開いたかもしれない。少し休むとしようぜ」
「そうね。ちょっと頭の整理もしたいし……軽く何か食べましょ」
ミレーヌが集めてくれた小枝に火をつける。
燃え上がった赤い炎が周囲を明るく照らした。
沸かしたお湯で紅茶を淹れる。
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