それはお決まりのセリフから

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それはお決まりのセリフから

「イリア・トリステン、今日をもってお前との婚約を破棄する」 その言葉を口にしたのはイリアの婚約者で、この国の王太子エリオット・ガイザールである。 淡い緑の髪から覗く晴れた夏の空のようなブルーの瞳が、まるで汚らわしいものを見かのように冷徹な眼差しを向ける。それを前にしてイリアは呼吸すらままならないほどの衝撃を受けた。 エリオットの傍には小柄な少女。 プラチナブロンドの髪に大きな菫色の瞳を持ち、男性なら庇護欲をそそるであろう細く儚い雰囲気の少女は、この国の聖女・アリシアだった。 アリシアは菫色の瞳を潤ませ、エリオットの影に隠れるように佇んでいた。 「お前は聖女を蔑み、数々の陰険な行為を行い、そして命まで奪おうとした。王位継承者としては看過できない。そのような女を婚約者にはできない。よってお前との婚約を破棄する」 今日はエリオットの誕生を祝う祝賀会だったが、舞踏会場はどよめきに包まれ、参加者たちは何が起こっているのか固唾を飲んで見守っていた。 (やっぱりこの日が来てしまったのね…) あまりの口惜しさと絶望で泣きたくなるのを必死にこらえる。 そして、次に来るであろう言葉を覚悟して聞いた。 「イリア・トリステンは国外追放とする。即刻この国から出ていけ。以上だ」 エリオットはイリアを冷たく一瞥する。 ここで泣いてしまっては、自分の負けを認めることになる。だから、イリアは堂々と前を向き、そして淑女の礼を取った。 「殿下のお心のままに」 ふわりと赤いドレスが揺れた。 イリアは優雅にほほ笑むと、人々の好奇のまなざしを感じつつ、踵を返して会場を出た。 白い大理石の廊下に引かれた赤い絨毯を歩く。 そして思い出していた。十二年前のあの日のことを。 イリアが予言されていた伝説の悪役令嬢であることを認識した幼き日のことを。
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