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抱える孤独
『離婚しよう』
悪夢から目を覚ます
現実なのか夢なのか判断するのに少し時間がかかった
「お父さん…」
お母さんの明るい声が聞こえてくる
また一日が始まる
「おはようございます」
「結ちゃんおはよう!!今日は学校に行くのよね?」
お母さんの隣で私をじっと見る男がいる
またお母さんが新しい男を連れてきたのだと気がついた
会釈をしたがその男は何も無かったようにお母さんに話しかけた
「聞いてねぇぞ」
男の低い声が家に響く
顔には不満と書いてあった
子供なんて聞いてない。そう言いたいんだろう
「だって祐介さん子供好きって言ってたじゃない」
お母さんは震えた声で男に問いかけた
嘘はついていないんだろう
男の思う子供は赤ちゃんから小学生くらいで
私は高校生。
そのギャップを受け入れられていないのだ
「高校生なんて聞いてねぇよ」
「祐介さん…でも結ちゃんだってまだ子供よ」
「じゃあ結婚の話はなしだな」
男は鞄を鷲掴みして家を飛び出して行った
お母さんは「まって、まって」と言ってドアの方に手を伸ばしている
また私のせいでお母さんは不幸になった
「お母さんごめん。隠れとけば良かったね」
私の言葉に耳を貸すことなくお母さんは泣き叫んでいる
あんな図体だけがデカいヤクザみたいな男のどこがいいのかは理解できなかった
私のお父さんはヒョロくて優しそうな人だったから
「お母さん。大丈夫。私がいるから」
「お母さんね、幸せになりたいだけなのよ。それに結ちゃんにも幸せになって欲しいの」
「うん。わかってる」
自分の幸せ=私の幸せ
お母さんはずっとそう思っている
「お母さんもっといい人見つけて来るからね」
親が離婚する時に私はお父さんじゃなくてお母さんを選んだ
お父さんを選ぶことだってできたのにお母さんの手を取ってしまった
お父さんの方を選んでいたらこの地獄を感じなかったのだろうか
お母さんを恨んでる訳では無い、お母さんを裏切れない弱い自分が情けなかった
「お母さんが幸せになれる道を私も一緒にさがすよ」
少し大きめな鞄に私は洋服とアルバイトで貯めていたお金を突っ込んで家を出た
「学校行ってくるね!」
「気をつけてね。あと少し待ってくれたら絶対幸せになれるからね」
「うん!!」
お母さんは私が帰っ来てほしくない時によく「あと少し待ってくれたら」という。
当分帰って来ないでという合図だ
いつも友達の家に転がり込んでるけど流石にこれ以上頼むのも心苦しい
だからか私は学校とは逆の方向の電車に乗りこんだ
いつもとは違う車窓の景色に開放感すら感じた
私の手にはお父さんの新しい住所が書かれてる紙が握られている
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