自覚

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自覚

「……わかった」  ガロンさんは、頷くと、微笑んだ。 「あなたは……やはり眩いな。あなたのそういうところに、俺は――……」 「ガロンさん?」  どうしたんだろう。  首を傾げてガロンさんを見つめ返すと、途端にガロンさんは顔を真っ赤にした。 「いやっ、そうか……俺は……そう、なのか?」  ガロンさんは、戸惑ったり、納得したりと忙しい。 「……ふふ」  ガロンさんのそんな姿が珍しくて、思わず笑う。 「――!」  驚いたように、目を見開いた後、ガロンさんは大きく頷いた。 「……そう、なのだな」  何が何だかわからないけれど。  結局、納得したらしい。 「ガロンさんは、何に納得したんです?」 「……っそれは」  ガロンさんはうろうろと視線を泳がせた。 「ガロンさん?」 「いや、今は……まだ話すべきではないから。……そうだな、あなたが魔国に帰ってきてから、話そう」  ? 気になるけれど、ガロンさんがそういうなら、いいか。 「約束ですよ」  小指を差し出す。  魔王相手に不敬だぞ、と怒られるかも、と思ったけれど、すんなりとガロンさんは小指を絡めた。 「あぁ、約束だ」  しっかりと、結んだ約束は、胸の中を温かくする。  私の帰ってくる場所は他ならぬこの城なのだと、確認できることはいいことね。  おかげで、自分の歩むべき道がはっきりとするもの。 「……それで、話を戻すが」  ガロンさんの言葉に、緩み切った顔をまじめなものに変える。 「ユグを一緒に連れて行ってもらえないだろうか?」 「はい、私はもちろん、構いませんが……」  アドルリアまで転移魔法で行くとしても、ユグは一週間も旦那さんであるマギリや、生まれ故郷と離れて不安ではないかしら。 「ユグも了承済みだ」 「そうなんですね」  さすがは、ガロンさん。根回しがいい。 「本当なら、俺も共に行きたかったんだが……」 「ふふ、そんなに心配なさらないでください。ガロンさんは公務がありますし、それに……」  私は微笑んで、胸元に手を当てる。  すると、ちりん、と鈴が揺れた。 「鈴もちゃんと持っていきます。……でも」  私は、そっとガロンさんを見つめた。 「万が一、何かあったら、駆け付けてくださいますか?」  自分でも甘えたことを言っている自覚はある。  そうだ――私は、この人に甘えている。  魔王で、上司相手になんたること! と私の理性は叫んでいるが、でも、なぜだか、理性よりも……。 「もちろんだ」  ガロンさんは力強く頷くと微笑んだ。 「まぁ、何もなければそれが一番いい。一週間の里帰りになることを願っている」
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